甘い牢獄
昨夜、エドワードに何度も深く口づけられ、蕩けるように甘やかされたリリアは、力が抜けて立つことすらままならなかった。
熱に浮かされた身体は彼の腕の中へと吸い寄せられ、抗うこともできず、ただ彼の温もりに包まれるまま。
唇を啄まれ、舌を絡め取られるたびに、甘い痺れが背筋を這い上がり、最後にはすっかり力を奪われて——気づけば、彼の胸に身を預けたまま、意識を手放していた。
——どうしてこうなったの……!?
目が覚めたリリアはベッドの上で小さく丸まりながら、目の前の光景に呆然としていた。
目の前にあるのは、まるで王宮の晩餐のように豪華な食事の数々。
別邸とは言え、流石王太子というべきか。
白銀の燭台に揺れる柔らかな光が、食卓を照らしている。
テーブルクロスは繊細な刺繍が施された純白のもの。
並べられた皿には、最高級の食材をふんだんに使った料理が美しく盛り付けられている。
しかし、そんな優雅な食事の場のはずなのに——
「さあ、リリア、おいで」
「え!?」
小さく丸まっていたはずのリリアは気づいたらエドワードに抱えられ──
なぜか、彼の膝の上に座っていた。
「……エドワード様、あの、私は普通に椅子に座りたいのですが」
震える声でそう訴えたリリアに、エドワードはあくまでも穏やかに微笑む。
「駄目だよ。だって、リリアはすぐに逃げるでしょ?」
「そ、それは……」
彼の膝の上から逃げ出そうにも、片腕をしっかりと腰に回されていて動けない。
「それに、君はまだ手錠が気になるんじゃない?」
「っ……」
エドワードの言う通り、リリアの手首にはまだ手錠が繋がっている。
ベッドに繋がれていた時よりは自由になったものの、完全に解放されたわけではない。
長すぎず短すぎない鎖は、リリアが彼の手の届く範囲からは逃げられないよう計算されているようだった。
(……どこまで用意周到なの、この人……!)
リリアは思わず涙目になる。
エドワードはそんな彼女を見下ろし、満足そうに微笑むと、手に持っていたフォークを軽く振った。
「ほら、口を開けて」
「……自分で食べます」
「それなら、椅子に座ってもいいけど?」
「本当ですか?」
「もちろん。でも、僕の手が届かない場所には行かせないよ」
「…………」
リリアは観念した。
結局、どこに座っても逃げられないのなら、今無理に抵抗する意味がない。
リリアは疲れていた。
もはやエドワードとの攻防で麻痺してきた事すら自分で気付かない。
「……あーん、してください」
そう言って小さく口を開けると、エドワードは満足そうに微笑み、フォークをそっと差し出した。
そこに刺さっていたのは、香ばしく焼かれた肉料理のひと切れ。
ゆっくりと口に含むと、口の中でジューシーな肉汁が広がる。
「……美味しい……」
思わずぽつりと呟いた瞬間、リリアははっとした。
しかし、それを聞き逃さなかったエドワードは、嬉しそうに目を細める。
「気に入ってくれてよかった」
穏やかな声が耳元で響く。
まるで恋人に甘やかされているような状況に、リリアの心臓は落ち着かなくなる。
(……でも、これって完全に誘拐犯と被害者の構図じゃない!?)
自分を正当化しようとする彼の態度にツッコミを入れたい気持ちを抑えつつ、リリアはそっと身をよじる。
しかし、それがいけなかった。
ほんの少し動いただけなのに、膝の上で擦れる感触が妙に生々しくて——
「っ……」
「あっ……」
エドワードが僅かに眉を上げる。
リリアは一瞬で顔を真っ赤にして、勢いよく彼の胸を押した。
「もう、いいです! 自分で食べます!」
「それは駄目」
「なんでですか!」
「君が可愛いから」
「ふざけてます!?」
「ふざけてないよ」
エドワードはさらりと告げると、今度はデザートのスプーンを手に取った。
そこには艶やかに輝くチェリーが乗った一口サイズのケーキが載せられている。
「はい、次はこれ」
「もう、自分で——んっ!?!?」
不意打ちだった。
スプーンが唇に触れる前に、エドワードはリリアの顎を軽く持ち上げ、すっと顔を近づけた。
そして、彼自身の唇で、そっとチェリーを押し込んできたのだ。
「んんっ……!!??」
リリアの瞳が驚きに見開かれる。
エドワードの舌先が、甘い果汁を含んだチェリーと共に入り込んでくる。
彼の舌がゆっくりと果実を転がしながら、意地悪く絡め取っていく。
「ん……っ、ふ……っ」
甘さと共に溶かされそうな感覚。
熱を帯びた口内に広がるのは、チェリーの甘酸っぱさと、彼の味——。
ようやく唇が離れた時、リリアは息を詰めたまま呆然と彼を見つめた。
「……ん、甘い」
エドワードは満足げに微笑む。
「ど、どうして、口移し……」
「食事も、君も、全部僕が味わいたいから」
「っ……!!」
さらっと告げられた言葉に、リリアは顔を真っ赤にして俯いた。
(な、なんなのこの人!! もう……!!)
ますます逃げる決意を固めながら、リリアは心の中で叫ぶのだった——。
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