囚われの令嬢と、甘い夜
リリアはベッドの上で膝を抱え、ぷくりと頬を膨らませていた。
(……おかしい。絶対におかしい……!!)
熱を帯びた唇が重なり、蕩ける黄身を含んだ舌がゆっくりと押し込まれる。
熱を帯びた卵が舌の上でとろりと広がり、濃厚な味わいが口いっぱいに満ちる。
喉を通る感覚に息を詰まらせると、エドワードの舌先が逃がさないと言わんばかりに絡みついてくる。
唇の端からこぼれそうになった半熟の欠片を彼の指がすくい取り、そのままそっと押し当てられる。
「全部、飲み込んで」
低く囁かれたその言葉に、熱が内側からせり上がる。
彼の眼差しが濃く、深く、自分を捉えて離さないのを感じながら——喉を鳴らして、それを受け入れた。
思い返すだけで、顔が火照る。
(……なんなのよ、あんな食べさせ方……!っ……思い出しちゃダメ!)
ブンブンと首を振り、気を取り直した。
(……とにかく、逃げないと!)
このまま大人しくしていたら、どんどんおかしな方向に進んでしまう気がする。
きっと次はもっと……とんでもないことをされるに違いない。
(なんとしてでも脱出してみせる……!!)
夜の帳が下り、部屋の灯りが落とされる。
シルクのナイトドレスに着替えさせられたリリアは、ベッドへと押し込まれた。
「おやすみ、リリア」
エドワードはそう言い残し、扉を閉めた。
(……今のうちに……!)
ベッドの上でそっと身を起こし、辺りを窺う。
静寂の中、わずかに風がカーテンを揺らす音だけが響いていた。
(いける……!)
慎重にベッドを抜け出し——
「っ……!」
カシャリ、と冷たい金属音が鳴った。
手首に繋がれた銀色の鎖が、ベッドの柱と絡まっている。
(……っ、そうだった……!!)
忘れていたわけではない。
むしろ、ずっと気になっていた。
右手首には、しっかりとした手錠がはめられている。
昼間は気を逸らすように食事をさせられたり、エドワードが付きっきりだったりしたせいで、うまく試す機会がなかったけれど——
(少しずつでも、外せるかもしれない……!)
手錠の鎖を辿り、慎重に動かしてみる。
少しでも緩む隙があれば——
「——リリア?」
囁くような低い声が、背後から聞こえた。
心臓が跳ね上がる。
(ま、まさか……!?)
ぎくりと振り返ると、そこには——
月明かりを背に、微笑を浮かべるエドワードの姿があった。
「……え、ど……」
言葉を紡ぐ間もなく——。
ふわりと、腰を抱かれた。
「っ!?」
抵抗する暇もなく、リリアの身体は宙を舞い、気がつけばベッドへ押し倒されていた。
「もう少し、様子を見るつもりだったけれど……やっぱり君は、逃げようとするんだね」
エドワードは苦笑するように呟きながら、リリアの手首をそっと掴む。
「だって……! こんなの、おかしいです……!」
必死に抗議するも、彼はただ優しく微笑むばかり。
「おかしい……?」
「そ、そうです! 婚約者を監禁して、逃げられないようにして……!」
「でも、リリア。君は嘘をつくからね」
「は……?」
何を言われているのか、わからない。
「君は本当に、逃げたいって思ってるの?」
囁くように言いながら、彼の指先が頬を撫でる。
熱を帯びた指が、ゆっくりと顎のラインをなぞり、唇へと辿り着く。
「さっきも、そうだったね」
指の腹で、そっと下唇を押される。
「……っ!」
「嫌がるフリをして、結局、受け入れてしまう」
「そ、そんなこと……っ」
「じゃあ、試してみようか?」
そう言った瞬間——。
ふわりと唇が触れた。
リリアの全身が強張る。
「……っ!」
エドワードの唇は、いつもと同じように穏やかで、それでいて逃がさないようにしっかりと押し当てられていた。
触れるだけの優しい口づけかと思ったのも束の間——ふいに、彼がリリアの下唇を甘噛みする。
「……っ、ふ……!」
びくりと肩を震わせた瞬間、わずかに開いた唇の隙間を逃さず、彼の舌がぬるりと侵入してきた。
「ん……っ!?」
温かく滑らかな感触が、リリアの口内を優しく探るように這う。
舌先が歯の裏をなぞり、くすぐるように動くたびに、ゾクゾクとした甘い震えが背筋を駆け上がる。
柔らかく、濡れた音が室内に響く。
「……っ、ん……んぅ……!」
逃げようとしても、後頭部を押さえつけられ、強引に深い口づけを与えられる。
エドワードの舌が、リリアの舌を絡め取るように引き寄せ、ゆっくりと吸い上げた。
「んっ……!?」
熱い舌が絡まり合い、逃げ場をなくしていく。
まるで息をすることさえ忘れてしまうほど、濃密な口づけだった。
「……ふ、ん……」
彼の舌が絡みつくたび、まるで溶かされるような感覚が体の芯にまで広がっていく。
唇を押し開かれ、執拗に味わわれるたびに、熱がじんわりと広がる。
(……だめ、力が……入らない……)
抵抗しようとしても、鎖の音がカシャリと鳴るだけで、自由はどこにもなかった。
それどころか、じわじわと奪われていくのは理性の方だった。
「っ……、ぁ……」
息が苦しくなってきた頃、ようやくエドワードが唇を離す。
熱っぽく濡れた唇が空気に触れ、リリアは荒い息を吐き出した。
「……やっぱり、君は甘いね」
囁くような声が、耳元で響く。
指先がそっと顎を持ち上げ、再び唇が重ねられる。
今度はゆっくりと、丁寧に。
先ほどまでの激しさとは違い、焦らすように何度も口づけられる。
リリアの震える唇を啄むように何度も吸い、軽く噛んでは優しく舌を這わせる。
まるで、逃がさないとでも言うように。
「っ、ん……ふ……」
何度も繰り返される口づけに、じんわりと痺れるような感覚が広がっていく。
「……君は、こうしていれば、大人しくしてくれるのかな?」
甘く囁く声に、リリアは抗うこともできず、ただ息を呑むしかなかった——。
続きは明日の10時に更新予定です。
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