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逃げられない甘い罠





(こんなの、絶対おかしい!!)


 リリアは再び手首に巻かれた手錠を睨みつけた。

 何度見ても、しっかりとベッドの柱に固定されている。


(……でも、こんなもの、外せばいいだけよ!!)


 リリアはすぐに行動を開始する。

 まずは、髪飾り——。

 ピンを使えば鍵を開けられるかもしれない。


 しかし——


「っ……く……開かない……っ!」


 想像以上にしっかりした錠前で、髪飾り程度ではびくともしなかった。


(くっ、なら——)


 次に狙うのは、ベッドの柱。

 試しに体重をかけてみるが、まるで動かない。


(くっ……さすが王族の別邸……家具の造りが頑丈すぎる……!!)


 それなら、最終手段。


(このままでも……逃げるしかない!!)


 窓まで行けば、誰かこの異常な状況に気付いて助けを呼んでくれるかもしれない。

 リリアはベッドを降り、鎖が届くギリギリまで進んだ。

 窓まではあと少し——


「さて、リリア、朝食の時間だよ」

「!?」


 背後からの声に、心臓が飛び跳ねる。

 振り返ると、エドワードが微笑みながら扉の前に立っていた。


(い、いつの間に……!?)


 窓まであと数歩の距離。

 けれど、入ってきたエドワードが脱走を試みるリリアに気付き、余裕の表情で窓の前に歩み、完全に進路を塞ぐ。


「朝からそんなに活発だなんて、感心するよ」

「っ……! 誰のせいでっ!」


 にっこりと微笑むエドワードをリリアは睨みつけながら再びベッドの上に戻る。

 無理に逃げようとすれば、もっと厄介なことになる気がした。


「さ、座って。食事を運ばせたよ」


 リリアは渋々椅子に座る。

 テーブルの上には、豪華な朝食が並べられていた。

 ふわふわのオムレツ、焼きたてのパン、香ばしいベーコンとソーセージ、そしてスープ。


(……くっ、すごくいい匂い……)


 朝から逃げようと動き回っていたせいで、お腹はすっかり空っぽだった。


「ほら、あーん」


 エドワードがフォークに乗せたオムレツを差し出してくる。

 優雅な仕草で、けれどその視線はどこか期待に満ちていた。


「いや、自分で食べます!!」


 リリアは即座に拒否する。

 しかし、手錠が邪魔しているせいで、まともにナイフとフォークを扱うことは難しい。


「でも、食べにくいでしょう?」

「……が、頑張ります!!」


 なんとかフォークだけを使って食べようとするが、上手くいかない。

 仕方なくエドワードをちらりと見上げると、彼は楽しげに微笑んでいた。


「無理しなくていいよ、リリア。僕が食べさせてあげる」

「だ、だから自分で——」

「じゃあ、口移しで食べる?」

「!?!?!?」


 思考が追いつかない。


(今、何を言われた?)


「ちょ、ちょっと待っ——」


 返事を聞く前に、エドワードは迷いなく自分の口にオムレツを運んだ。

 咀嚼する音がやけに鮮明に聞こえる。


 そして——


「ん……」


 ふっとリリアの顎を掴み、ためらいなく顔を近づけてきた。


「え、ま、待って——!」


 言葉が終わるより早く、唇が塞がれる。

 柔らかく、けれど押しつけるような深いキス。

 驚きに目を見開くも、エドワードの舌がすぐに侵入してきた。

 先ほど口に含んだ食べ物を、そのまま押し込んでくる。


「っ……!?」


 熱を帯びた舌先が、無理やり唇の隙間から入り込む。

 絡め取るように、強引に舌を押しつけられる感触。

 甘さと塩気が混じる味が口の中に広がる。

 それどころではない、喉の奥に落とし込まれるオムレツと一緒に、エドワードの熱が流れ込んでくるようだった。


「……っ、ん、ぅ……」


 息をするのも忘れそうなほど深く、執拗に。

 ただの口移しではない。明らかに、これは”キス”だった。


(い、いや……こんなの……っ!)


 逃れようとするが、顎をしっかりと押さえられていて動けない。

 抵抗すればするほど、彼の舌は執拗に絡みついてくる。


 それは、まるで——


「ふ……ん、可愛いね、リリア」


 やっと唇が離れた時、エドワードは満足げに微笑んだ。

 リリアは呆然としながらも、荒く息を整える。


「な、な、な、なにしてるんですか!!!」

「君が食べたがらないから、仕方なくね」

「仕方なくじゃないでしょ!? もっと他にやり方が——」

「うーん……でも、リリア、美味しそうに食べてたよ?」

「っ……!!」


 顔が一気に熱くなる。

 そんなつもりはない。そんなわけがない。


「もう、いいです!! 自分で食べます!!!」


 必死にフォークを握るが、手が震えて上手く使えない。

 エドワードはそんなリリアを満足げに眺めながら、優しく囁いた。


「……次もそうするからね?」

「きゃああああああ!!!」


 リリアの抵抗虚しく、彼との甘い監禁生活は、まだまだ続きそうだった——。

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次の話は19時です。

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