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別れを切り出そうと思うのだけれど・・・

作者: 瀬崎遊

 二人の関係で結婚を想像できなくなったのはいつからだったろう?

 互いに口にはしないけれど私達の道が交わることはないと思っている。

 特別な何かあったわけではない。ただ仕事が忙しかったり、体調が悪かったり、虫の居所が悪かったり。    

 そんなことが積み重なって一つ、また一つと、諦めた・・・。


 今日こそはもうこの関係を終わらせようと思うのに口にすることができずに一体何日経っただろう?

 もしかしたら何ヶ月?いや、一年以上の日が経っているかもしれない。


 好きだから、愛しているから別れられないのではない。

 ただ不都合がないから別れないだけ。なのだと思う。

 また無駄に一つ(とし)を取ってしまった。十代から一緒に暮らし始めて私はもう30歳を超えて数年が経ってしまった。

 今日こそは別れを切り出そう。



 今日こそはと決心を固めて帰ったのに、二人の部屋に帰ると食事が用意されていた。

「今日は早かったんだね」

「ああ」

 私より早く帰ってきた日はこうして夕食を作って待っていてくれる。

 月に一度か二度しかないけれど、たまに用意されている食卓は無条件で嬉しい。


 別れを切り出すはずだったのに、出鼻がくじかれてしまった。

 今日もまた何も言えずに一日が終わってしまうのかな?


 急いで着替えて食卓に腰を下ろした。

 手を合わせて食事を作ってくれたことに感謝を告げて口に運ぶ。


 作ってくれるおかずはいつも少し塩っ辛い。ご飯が進んでしまう。

 会話らしい会話はないため、あっという間に食べ終わってしまう。


 昔はこうではなかった。

 食べるより、一日にあったことを互いに話すことに忙しいくらいだった。

 なかなか減らないご飯が冷たくなって、それでも二人で美味しく食べていた。



「ねぇ・・・」

「ん?」


 私は何を言うつもりだったのだろう?なんでもないって言うんだ。そうしたら今日も一日、何事もなく終わる。ちがう。別れを切り出すって決めたんだから、私が口にするべきことは・・・。



「別れようか?」


 ついに言ってしまった。声が震えてしまった。

 何事もなかったかのように平然とした顔をする。

 少し冷めた日本茶を口にして、返事を待った。


「別れたいのか?」

「よくわからないわ。でもこのまま一緒にいても無駄に年取って行くだけでしょう?」


 私の顔を眺めながら「そう、かもな・・・」という返事を聞いて、まだ期待していたのだろうか?

 ショックを受けた自分が悲しかった。


「私が出ていくね」

 なんの(いら)えもなかったので私は食べ終わった食器の片付けをするために立ち上がった。



 お風呂から出て、ベッドは一つしかないから隣に横になった。

 何ヶ月ぶりだろう?

 彼の重みを感じたのは。

 別れ話をしたところなのに、なんの抵抗もなく受け入れてエクスタシーを感じる。

 


 次の日、仕事が忙しいのか帰りが遅かった。

 食事の用意が終わってもまだ帰ってこなかったので、出ていくための荷物を少しずつ荷物をまとめようと思った。


 全てに思い出があって、持っていくのは無理だと気がついた。

 部屋を先に見つけて全て新しく買い揃えよう。

 持ち出すのは身の回りのものだけを持っていけばいい。

 思い出とともにすべて残していってしまおう。


 その日遅くに帰ってきて、朝、目が覚めたらベッドの隣は冷たかった。

「早くに出ていったんだ・・・」


 朝食のためにキッチンに行くとテーブルの上には婚姻届が置いてあって、その上にペンが一本、結婚指輪が一つ置いてあった。

 私の名前以外のところはすべて記入されている。

 指輪の内側には二人のイニシャルが刻印されていた。そして・・・。


『LOVE』と刻印されていた。



「ばかね。必要なのは会話なのに・・・」


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― 新着の感想 ―
わかるーーー 必要なのは会話なの。 返事をすれば良いってだけじゃない。 大事なのは会話をしようとすること。 返事と会話は違うのよ。 結婚したらもっと【言わなくてもわかるだろ】が加速するの。 で、【恋人…
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