荒療治
俺は集めたアルファの鬼の灰を研究所に持っていく。
名前や所属部隊をタブレットに記入して、 あとは待つだけだ。
この時間がいつもより長く感じるのは、 病院の待合室に似てる。
「結果が出るのに三日ほど掛かります」
「早急にお願いします」
「順番がありますので」
分かりましたと研究室を後にする。
三日間はいつ戻り報告書を読み漁ろうと自室に向かう。
結果がでるまで、 任務に就きあることに集中してた。
「出動命令だ行くぞ」
「最近、 出動多くない?」
「隊長少し休んでは?」
「出動命令を無視できない」
それより結果が出るまで、 何か動いていないと気が紛れないのだ。
現場に着いて、 まだアルファの出現の報告が出ていないのを確認して、 規制線を越える。
「僕たちが一番乗り!」
「好都合だ」
「何がですか?」
茜の言葉を無視して、 タブレットで熱感知を見て、 鬼の数を数える。
五体か……茜たちなら一瞬で討伐出来る数だ。
「三体だけ討伐してくれ」
「残り二体はどうするんですか~?」
「共食いをさせる」
茜たちは驚いた顔をしてこちらを見る。
俺たちの仕事は鬼退治で、 鬼の増幅を手伝うことは禁じられている。
「アルファの灰が欲しいんだ」
「でも……」
「さりげなくでいい」
「隊長の命令だし、 仕方ないか~」
晶と未来は飲み込んでくれたが、 茜は終始心配そうに俺を見つめる。
だが、 すぐに背を向けオメガの退治に向かう。
一体のアルファの鬼の灰じゃ統計が取れないと思い、 この三日間アルファの鬼の灰を集めていた。
茜たちも知っていたが、 まさかアルファを作り出すまでとは、 思っていなかったようだ。
すぐに三体のオメガを討伐して、 二体だけが残ったが、 何も起こらず茜たちを襲う。
「こいつら共食いしないよ!」
「隊長、 ドローンに撮影されています。誤魔化すのも限界です」
「わかった……討伐してくれ……」
俺は何故アルファにならないか考える。
何か条件でもあるのか、 知能がないのかなどと考えるが鬼の行動が読めずにいた。
「隊長の危険を排除するのも私たちヌークの役目です」
「あぁわかってる」
「私たちヌークは、 隊長の命令は聞くようにプログラミングされていますが、 上に見つかれば、 私たちの隊長では、 なくなるかも知れません」
「あぁ気を付けるよ」
俺たちはシグナルに戻り、 タブレットを開くと「結果報告がありますので、 研究室まで」との報告が入っていた。
俺は急いで、 研究室に向かう。
殺風景な通路が心急ぐ気持ちを加速させる。
何も手がかりが無いかも知れないが、期待せずにはいられない。
解決の糸口になりうる情報が掴めるかも知れないと、 額に流れる汗も気にもせず走る。
あいつの無念を晴らせることが出来るかもしれない。
研究室に着いて、 受付に名前と部署名を言い、汗を拭いて待つ。
結果が出るまで集めたアルファの鬼の灰を一応持ってきた。
「シママキさんこちらへ」
病院の受付のように案内され、 研究室の中に入る。
廊下より白い蛍光灯が照らす中は目がチカチカとする。
案内してくれたのは、 女性で高いヒールに長い髪は綺麗に巻いており肌の露出も多く、 研究員をイメージとはかけ離れた女性だった。
「私は早乙女と言います。 まず、 灰の成分から離すと何処にでもある灰でした」
足を組みながらタブレットを操作する姿は色気が滴る。
ただの灰と言う言葉に落胆を覚える。
「おかしな成分が出たのよ」
「おかしな?」
「そう、 塩酸エフェドリとコンバラトキシン、 コンバロシド、 コンバラマリンが出てきたの」
「もっと分かりやすく言うと?」
「塩酸エフエドリはアッパー系の薬で、 簡単に言えば麻薬ね」
「他三つは?」
早乙女さんはタブレットを俺の方へ向けて画面をタッチした。
そこに移されたのは綺麗な白い鈴方の花だ。
「当てはまるのがこの花、 鈴蘭って言うんだけど、 花、 茎、 葉、 全てに毒がある綺麗な花よ」
「鈴蘭は知っていたが、 毒があるなんて知らなかった」
「あとは、 最近流行りのフェンタニル。通称ゾンビ麻薬」
「快楽の為では無さそうだな」
「えぇ殺意しかない成分だけど、 麻薬が入っているから幻覚作用は多少あるんじゃないかしら?」
専門知識だらけで頭がパンクしそうだが、 一つ一つ頭で整理する。
「鬼になる前は、 薬物中毒だったんじゃない?」
「新種の薬物か……」
「まぁ一つでも飲めば死ぬような薬を売って儲けが出るのかどうかだけど」
「リピーターを求めない売人がいるってことだな」
「まだ一体だけだから分からないけどね」
「だったらこれも検査してくれ」
俺は集めたアルファの灰が入った小瓶を渡す。
「用意がよくて好きだわ」
「優先的に検査するわ」と言ってもらえて俺は研究室をでた。
やっと手がかりが掴めたのだ、 心臓が変に鼓動を打っている。