断固とした決意
2048年8月1日。大日本帝国帝都東京首相官邸では叶総理が閣議を招集していた。トルコへの更なる軍事支援について話し合う為であった。ヨーロッパ合衆国軍は第2防衛線の突破とトルコのヨーロッパ側領土の一時的な放棄を受けて、占領統治を優先的に行っていた。それを一種の時間稼ぎにしたトルコはイスタンブール空港を重要拠点とし、南北に貫く第3防衛線の構築と、イスタンブールのヨーロッパ側を第4防衛線として構築し、最悪の場合にはボスポラス海峡に架かる3つの橋である、『7月15日殉教者の橋』『ファーティフ・スルタン・メフメト橋』『ヤウズ・スルタン・セリム橋』を爆破する準備を行っていた。更には海底トンネルも爆破する計画が立てられた。全てはヨーロッパ合衆国空軍と海軍の攻撃を受けながらも順調に進展していた。そこでトルコとの協議を受けて全面的に補給物資を提供すると表明した以上は、追加の軍事支援を必ず行わなければならなかった。
叶総理は国防大臣に率直な意見を求めた。トルコはいつまで戦えるのか、それを知りたかったのだ。国防大臣はその質問は想定しており、国防省で常に会議を行っておりその内容を説明し始めた。国防大臣は国防省での会議でトルコ軍とヨーロッパ合衆国軍について詳細に検討した事を話した。戦力差はヨーロッパ合衆国軍が圧倒的であり、トルコ軍は劣勢極まりない事が分かり切っていた。だがトルコは効率的な国境線からの後退によりまずは第2防衛線でヨーロッパ合衆国軍に出血を強いる事にし、更にはヨーロッパ側の領土を一時的に放棄して、第3第4防衛線の構築も進めヨーロッパ合衆国軍を何としても食い止めようとしている事。以上が現在の状況であった。短期戦ならヨーロッパ合衆国が勝つはずであったが、防衛線の抵抗により予想外の長期戦になっている事がヨーロッパ合衆国にとっては予想外である事。
そしてその長期戦は私達が軍事支援を行った事により、ヨーロッパ合衆国はある意味でトルコへの全力を挙げた侵攻が難しくなったとの結論に、国防省での会議で至ったと国防大臣は説明したのである。
つまりは大日本帝国以下の亜細亜条約機構加盟国と中南米諸国による軍事支援が、今回のトルコ侵攻にヨーロッパ合衆国に対する抑止力となっていたのである。確かにヨーロッパ合衆国は軍事支援発表以後に攻勢を激化させたが、全力を挙げたものとはいえなかった。それは国防大臣が言ったように、全力を挙げて侵攻をするともしかしたら大日本帝国以下亜細亜条約機構が介入してくるかもしれない、そのような疑心暗鬼に陥っていると推測された。
その勝手な思い込みは大日本帝国にとっては渡りに船であった。既にヨーロッパ合衆国がトルコに侵攻した当初から、軍事介入はしないと結論付けている為にヨーロッパ合衆国が自重するのはある意味で有難い事であった。それに叶総理はシャーロット大統領の言ったローマ帝国云々と『明白なる使命』について疑問があると語った。
そして文部大臣にヨーロッパ合衆国もといヨーロッパ諸国は、ローマ帝国滅亡の原因になった蛮族の成れの果てであるよね、と尋ねた。尋ねられた文部大臣はまさかこのような閣議で、発言の機会があるとは思わなかった。だがまたとない機会である為に嬉々として口を開いた。
叶総理の言われるようにローマ帝国滅亡はゲルマン民族の大移動が原因である事、その蛮族の大移動によりかつてのヨーロッパ各国家の根幹が成された事、この事からシャーロット大統領の言った21世紀のローマ帝国とは全く理解に苦しむ発言である事、以上を文部大臣は力強く説明した。
それを受けて法務大臣は、シャーロット大統領の妄言ですね、と吐き捨てた。その言葉に閣僚達は大いに賛同した。そうとしか言えなかった。民族の移動という日本人には理解し辛い内容であるが、それが乗り越えられない文明の差ともいえた。
やや歴史談義になってしまったが叶総理は軍事支援の意義はあるとして、今後とも続けていく事が重要だと断言した。軍需庁長官は軍需企業の生産体制は万全であり、どのような需要にも応える事が可能だと語った。財務大臣は現状の臨時予算による歳出ではある種良性な公共事業的な投資になる為に、国家財政に対しては全く影響は無い力強く言い切った。
それを聞いた叶総理は改めてトルコは絶対に見捨てないと断言した。あらゆる支援を惜しまず、現状の全面的軍事支援は必ず継続すると宣言した。それこそがヨーロッパ合衆国に対する的確な対抗策であるとも語った。閣僚達も叶総理の考えには賛成であった。ヨーロッパ合衆国をある種出血を強いる泥沼に引き摺り込んだ事は、新世紀冷戦に於いて大きな利点になる筈であった。
叶総理の揺るぎない決意は閣僚達にも伝わり、それは大日本帝国としての統一した見解になったのである。




