緊急対策
ヨーロッパ合衆国のトルコ侵攻は世界に衝撃を与えた。まさかの事態であった。
『2048年7月21日午前5時3分から始まったヨーロッパ合衆国呼称の[特別軍事作戦]はヨーロッパ合衆国ルーマニア州のロシア連邦国境線に配備してあった陸軍20個師団が、トルコ侵攻の主力になっていた。その陸軍を空軍と海軍が全面的に支援していた。空軍の誇るステルス戦闘攻撃機ミッドガルド・ステルス戦闘攻撃機ニヴルヘイムのみならず、ステルス戦略爆撃機アスガルドまでが投入されて激しい空爆を行っていた。海軍も地中海から機動部隊が支援を行い、原子力空母ゼウス級は艦上ステルス戦闘攻撃機ユグドラシルを発艦させて激しい空爆を加えていた。原子力戦艦オーディン級は原子力巡洋艦カエサル級・原子力駆逐艦ミュンヘン級・原子力汎用フリゲート001級を率いて、超電磁砲による艦砲射撃を加えていた。陸海空による統合作戦はトルコ侵攻を迅速に達成させ、国境線を瞬く間に突破した。
対するトルコも全力で迎撃を行い、ヨーロッパ合衆国に出血を強いていた。国境線がヨーロッパ合衆国に瞬時に突破されるのが分かり切っていた為に、国境線から後退したイェニジェ・クルクラレリ・ババエスキ・ウズンキョプリュ・ケシャンの都市を拠点に第2防衛線を構築していた。ある意味でヨーロッパ合衆国を誘い込む事をトルコは計画していたのである。事実トルコ陸軍を侮った一部のヨーロッパ合衆国陸軍部隊は、前進し過ぎた為にトルコ陸軍に包囲殲滅されていた。トルコは経済成長とそれに付随する社会保障制度の充実により、人口は1億人を突破し1億2千万人を超えていた。そして世界でも珍しく徴兵制がある為にトルコ軍は300万人にも達していた。地理的に陸軍が重要視され陸軍は225万人になり、空軍も74万人にもなっていた。海軍は沿岸警備程度の能力しかなく人員も1万人しかいなかった。
陸軍と空軍は決死の覚悟で迎撃を行い、ヨーロッパ合衆国軍の侵攻を第2防衛線で食い止める事に成功していた。予想外なのはヨーロッパ合衆国であった。トルコのような弱小国は即座に蹂躙出来ると思っていたが、まさかの抵抗を受けて停滞してしまったのである。その為にヨーロッパ合衆国は空軍と海軍による攻撃を強化した。トルコ西部のみならず首都アンカラや最大都市イスタンブールは壮絶な空爆と艦砲射撃を受ける事になった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋
ヨーロッパ合衆国がトルコに侵攻した事により、大日本帝国では叶総理が首相官邸地下の危機管理センターに駆け付けた。まさに緊急事態であった。昨日のトルコによる先走っての発表には驚いていたが、まさかヨーロッパ合衆国が実力行使に出るとは思っていなかった。確かにI3や空軍の偵察衛星により陸軍の移動は確認されていたが、それも軍事的圧力を加える為の移動だと判断していた。それは空軍や海軍の移動が確認されても、軍事的圧力であるとの判断は変わらなかった。
だがヨーロッパ合衆国はトルコに侵攻したのである。偵察衛星による映像では、西部国境線から侵攻したヨーロッパ合衆国陸軍の進撃は順調であるがトルコ陸軍の第2防衛線に食い止められているのが確認出来た。それを確認した国防大臣は、トルコへの救援軍派遣を叶総理に直訴した。だがそれに叶総理は現実論で返答した。根拠は何か。国防大臣は現実を突き付けられた。救援軍を派遣しようにもトルコとは軍事同盟を結んでおらず、亜細亜条約機構加盟国でも無かった。ただ親日国であるというだけで救援軍をおいそれと簡単に派遣出来るものでは無かった。
黙り込んだ国防大臣に代わり外務大臣が、それなら亜細亜条約機構緊急総会を開催してトルコの加盟を即座に認めましょう、と提案した。それなら亜細亜条約機構加盟国に対する亜細亜条約第2条が発動され、自動的に参戦出来ますと力強く言い切った。だがそれも叶総理は即座に反論した。
そうなればヨーロッパ合衆国と全面戦争になることが分かり切っているのに他の加盟国が賛成するか不透明、そう言い切った。その言葉に外務大臣も黙るしか無かった。今の時点で亜細亜条約機構加盟国がヨーロッパ合衆国との全面戦争に賛成するとは思えなかった。ヨーロッパ合衆国から亜細亜条約機構加盟国の何処かの国に攻撃を仕掛けてくれば、その時は参戦するが未だに加盟していないトルコの為にわざわざ参戦するとは思えなかった。
救援軍も亜細亜条約機構加盟も無理と分かり、危機管理センターは気まずい雰囲気となった。その雰囲気を打ち破ったのは叶総理でもあった。叶総理は居並ぶ関係閣僚を見渡すと、トルコに対する総力を挙げた全面的軍事支援を行うと宣言したのである。




