事態急変
前作の新世紀日米戦争がお陰様で10万PVを達成しました。ありがとうございます。
2048年7月15日に開催された亜細亜条約機構緊急総会は、当然ながら非公開で行われていた。だがヨーロッパ合衆国はその内容を容易に予想出来た。何せ自分達が戦争準備を始めているのだから、相手もそれに対抗するのは当然だと思っていた。大日本帝国を筆頭に亜細亜条約機構陣営は緊急総会終了後から、猛烈な勢いで軍の動員を開始した。もはやヨーロッパ合衆国が戦争を仕掛けて来るのは既定路線であると言わんばかりに、各国は急いで戦争準備を行った。ヨーロッパ合衆国も相手が戦争準備を開始した為に、自らの計画を更に加速させる事にしたのである。
まさに突如として戦争が現実味を帯び、各国のマスコミはそれについて報道を行った。その内容は当然ながら相手陣営の不気味な行動が、自分達の陣営の行動に繋がっているとしたプロパガンダ報道でもあった。ある種の策略で各国政府が都合の良いように、世論を誘導しようというものでもあった。SNSも大規模に活用され、全てが自分達に都合が良い内容に溢れかえっていた。
それに世界は今回の戦争が近付く事に、ある意味で安堵していたのが現実であった。純粋水爆という歴史上圧倒的な破壊力を有する事になった両陣営だが、レーザー砲の実用化配備により都市部への核攻撃は確実に阻止出来る能力を有していた。その為に嘗ての米ソ冷戦の時のような戦争=核戦争という認識にはなっていなかった。その結果は通常兵器による戦いになる為に、人類滅亡という悲惨な事態は想定されていなかった。どちらの陣営が勝利するにせよ、新世紀冷戦という緊張状態は無くなる為に安堵感の方があったのである。
無責任で能天気な一部の学者は新世紀冷戦に於ける大日本帝国とヨーロッパ合衆国が率いる各陣営が構築した軍備に対して、その投資額を全て宇宙開発に利用すれば既に太陽系進出は成し遂げられていたと発表していた。だがそれは理想論でしかなかった。国家が最大限に優先するべき事項は、安全保障である。国家が安全保障を優先するからこそ、経済活動を筆頭にその他の行為が円滑に行えるのである。それを無視して自らが安全な立場にいながら理想論を振りかざす一部学者を、大多数の国民は声高に非難した。それはどの国でも同じであり、哀れな一部学者は自らの無知を曝け出す事になったのである。
そのような状況にある世界で、2048年7月20日トルコが亜細亜条約機構への正式加盟申請を遂に発表した。
トルコの現在の立場は新世紀冷戦に於いて大日本帝国寄りを鮮明にしているが、亜細亜条約機構への正式加盟には至っていなかった。大日本帝国とトルコは『エルトゥールル号遭難事件』以後親密な関係にあった。大日本帝国はトルコとの関係性を重視し、経済軍事両面で支援を行っていた。亜細亜条約機構加盟国もほぼ全ての国がトルコとは良好な関係にあった。だが亜細亜条約機構を構成する国で、大日本帝国との双璧を成す国がトルコとは対立していた国だった。
ロシア連邦である。トルコとロシア連邦はトルコがオスマン帝国の時から対立関係にあり、16世紀以降露土戦争や第一次世界大戦などの形で断続的に交戦してきた。第二次世界大戦後の東西冷戦期には、トルコはNATOに加盟して当時のソ連と対峙し、モントルー条約を基に黒海から地中海にかけて艦隊の通行に制限をかける事があった。その対立関係は長く続き東西冷戦終結後も両国の対立は改善されなかった。
その後新世紀日米戦争を経て新世紀冷戦になると、ヨーロッパ合衆国の脅威からトルコは大日本帝国陣営を明確にしていた。そして国家安全保障の観点から、亜細亜条約機構への正式加盟を目指したが、ロシア連邦の強固な反対が予想された為に、加盟要請は行う事は無かった。その為にトルコは亜細亜条約機構に正式加盟する事は無く、大日本帝国寄りを鮮明にするだけに留まった。これには大日本帝国は苦慮する事になった。ロシア連邦は亜細亜条約機構に於いて重要な構成国であった。トルコも親日国である為に大日本帝国には重要な国であった。その為に大日本帝国はロシア連邦に配慮してトルコの亜細亜条約機構加盟は保留する事にしたが、トルコへの経済軍事支援は大規模に拡大する事にしたのである。
だがトルコが大日本帝国寄りながら亜細亜条約機構に加盟しないのは、ヨーロッパ合衆国にとっても利点になっていた。トルコまで亜細亜条約締結に加盟すれば国境線全てが亜細亜条約機構加盟国に接する事になり安全保障の観点から著しく不利になるからだ。それにトルコがモントルー条約によりロシア連邦の海軍の動きをある種封じ込める事が出来るのも、ヨーロッパ合衆国にとっては有利であった。
だがそれはヨーロッパ合衆国が自分達に都合が良いように思っている事であり、トルコは亜細亜条約機構加盟を諦めていなかった。その為にトルコは大日本帝国と協議し、亜細亜条約機構へ加盟する為にモントルー条約の失効を表明した。その表明を受けて大日本帝国もそれならロシア連邦も支持してくれると考え、トルコの決断を支持した。だがそこでトルコは先走り亜細亜条約機構への正式加盟申請を、遂に発表してしまったのだ。ロシア連邦も外務省の担当者による実務者協議を行っており、トルコがモントルー条約失効を表明した事は知っておりトルコの亜細亜条約機構加盟を非公式ながら支持した。だが大日本帝国を筆頭にまだ交渉は続いていたのだ。
それをトルコが先走ってしまった為に、ヨーロッパ合衆国が驚くべき行動を開始したのであった。




