日欧首脳会談2
1時間の休憩を挟んで、首脳会談は再開された。
シャーロット大統領の突然の戦争も辞さないとの言葉を、叶総理は問いただした。本当に戦争に発展しても良いのか、とも詰問した。その問いにシャーロット大統領は、その覚悟があるからこそヨーロッパマフィアを利用しての姑息な手は使わないという証でもある、と応えた。予想外の返答に叶総理は呆気にとられた。シャーロット大統領は続けて、ヨーロッパ合衆国はカナダ大統領の妥協案を受け容れる事、それによりヨーロッパ合衆国がヨーロッパマフィアを利用していないという証明になる事、以上を語った。
叶総理にとっては更に呆気にとられた。これなら確かに合意しても良い内容であった。だが叶総理は先月閣議で話し合った事を忘れていなかった。ヨーロッパ合衆国がヨーロッパマフィアを取り締まるフリをする、それが唯一にして最大の懸念点だった。叶総理はシャーロット大統領の妥協案受け容れに感謝を述べると、その合意事項の履行は確実に行えるのか尋ねた。
その質問を想定していたシャーロット大統領は、必ず履行すると共に映像による状況報告を定期的に行うと宣言した。それは叶総理にしても許容範囲の内容であり、更には踏み絵的意味合いも成し遂げられる筈であった。そうなれば首脳会談にまでこぎ着けた意味があると叶総理は判断した。
随伴する者達も同意見らしく、叶総理の判断を受け容れていた。それにもしもヨーロッパ合衆国が小細工をしていたら、それこそ追求する材料を提供しているのと同じ事になる。更にはヨーロッパ合衆国は戦争も辞さないとの覚悟もあった。叶総理にしてみれば色んな意味で新世紀冷戦を終わらせる事が出来る、そのような考えが浮かんでいた。例え戦争になろうとも。
『こうして史上初の日欧首脳会談は共同声明を採択し、協同記者会見で発表された。内容はヨーロッパ合衆国が責任をもってヨーロッパマフィアを取り締まり、その経過報告は欠かさず大日本帝国に行うと明記された。この共同声明はカナダ大統領による妥協案を全面的に採用した形となり、史上初の日欧首脳会談の立役者であるカナダの面子を保つ結果にもなった。この共同声明により世界は何とか紙一重で、戦争は回避されたと感じていた。シャーロット大統領の戦争も辞さないという言葉に、一時的に世界は恐怖のどん底に叩き落されていた。だが叶総理もシャーロット大統領も共に、戦争回避の妥協案実行に移したと世界は認識していた。これにより当時は新世紀冷戦は継続されるも、戦争という悲惨な結末は回避出来たと思われていた。だが読者の方々はこの史上初の首脳会談で妥協案に到達したにも関わらず、戦争に発展してしまったのは周知の事実である。
戦争については別稿するとして、問題はこの時に発表された共同声明の内容であった。未だに情報開示が成されていない為に想像するしか方法は無いが、この共同声明の内容からして叶総理もシャーロット大統領も戦争は覚悟していたのではなかろうか。ある意味でヨーロッパ合衆国は不利になるような条件であった。ヨーロッパマフィアがヨーロッパ合衆国の関与するものでは無かった事を証明する為に、ヨーロッパ合衆国はヨーロッパマフィアを取り締まる事を約束する。それを証明する為に経過報告も欠かす事はない。政治的妥協の産物であるのが、ものの見事に現れていた。大日本帝国としてもある種踏み絵的なものとして、ヨーロッパマフィア取り締まりを要求した節はあると思われた。ヨーロッパ合衆国が本当に関与していないのならヨーロッパマフィア取り締まりは行う筈であり、取り締まりを拒否すればヨーロッパマフィアをヨーロッパ合衆国が利用している証明になった。どちらに転んでも大日本帝国には得であった。関与していないと証明するにはヨーロッパマフィアを取り締まる必要があり、拒否するならヨーロッパ合衆国はヨーロッパマフィアを利用して麻薬密輸を行った事が白日の下に晒される。
当時はこの共同声明をもって大日本帝国の外交的勝利だと世界は捉えていた。だが結果を知る者からすれば、この判断は大きな過ちだった事になる。世界が何とか均衡を保ち続けたのは首脳会談後、そう長くは無かった。しかも首脳会談冒頭でシャーロット大統領が言ったようにヨーロッパ合衆国以下中東アフリカ諸国は、大日本帝国に対抗する為に大軍拡を続けていた。その規模はもはや常軌を逸するものであり、何を目標にしているのかは言うまでもない事であった。私は今となっては断言出来る。この首脳会談に於ける共同声明の受諾は、ヨーロッパ合衆国による時間稼ぎが最大の目的であったのだと。これ以後の新世紀冷戦の対立が更に過激になり最終的に戦争になった事を考えると、私の説は間違っていないと確信している。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋




