日欧外相会談
2048年5月20日。『世界の孤児』と揶揄されているカナダ首都オタワにて史上初の、大日本帝国とヨーロッパ合衆国による外相会談が開催された。世界各国が大日本帝国率いる亜細亜条約機構の陣営とヨーロッパ合衆国の陣営に分かれており、アメリカ合衆国でさえも『アメリカ動乱』に於いて大日本帝国寄りを明確にしていた。そんな中でカナダは世界で唯一中立を貫き通している国であった。ヨーロッパ合衆国成立によりイギリスが『イギリス連邦王国』と『コモンウェルス』を解体した事により、完全なる共和国となっており以後中立を明確に表面していた。
国境を接する『2つのアメリカ』が亜細亜条約機構加盟と大日本帝国寄りを表面した為に、世界で唯一の中立国になってしまった。だがカナダはその中立の立場を利用して、かつてスイスが行っていた『世界の金庫番』としての役割を引き継いでいた。
スイスが銀行業で世界的に有名になったのは1934年に画期的な連邦法である『銀行および貯蓄銀行に関する連邦法』が可決され成文化され、それにより圧倒的な匿名性と秘匿性・独立性が保障されているからである。それは非常に高度なレベルで機密保持され、スイス銀行法に基づく顧客情報の厳格な秘匿・守秘性は高度なプライバシー保護を可能とし、番号口座により口座所有者の名前や住所を含む情報が一切開示されないという特徴も有していた。だがそれは非合法活動や犯罪を含む不法・不正な報酬の受け取りやその蓄財・脱税にも最適であり、世界各国の独裁者や犯罪者が利用しているとも言われていた。ある意味で負の側面も有していたが、それがスイス銀行の機密保持の高さの証明でもあった。
スイスは永世中立国でどの国とも戦争をしないと宣言しており、ヨーロッパ連合にも参加していなかった。その為に他国の情勢に左右される可能性が低く、国としてのリスクが低いのが最大の利点でもあった。だがその誇るべき最大の利点もスイスがヨーロッパ合衆国成立に参加してしまった為に消滅してしまい、スイス銀行の特徴も一気に失墜してしまった。当然であろう。今までは永世中立国スイスの銀行という他国から見て安心材料があったから、多額の資金が預けられていた。だがそれがヨーロッパ合衆国スイス州という国家の1州にまでなってしまった。そうなると独立性のみならず匿名性や秘匿性まで失われてしまう事になった。それはスイスの各銀行のみならず、ヨーロッパ合衆国に参加すると決めた当のスイス政府首脳陣も思っていた。
そこでスイス政府はヨーロッパ合衆国に参加すると表面してからスイス銀行各店に接触し、カナダへの銀行業務全ての移転を提案した。スイス政府は既にカナダ政府にその提案を行っており、承諾を得ていた。いきなりの提案であったがスイス銀行各店は業務を続けられると分かると、スイス政府からの提案を受け入れた。そうしてヨーロッパ合衆国が成立してから、スイス銀行各店はカナダへと移転した。アルプス山脈の麓にあった地下金庫や金の貯蔵庫も、カナダの『カナディアンロッキー』の麓に新設して全て移転した。スイス銀行の全てのノウハウと人員が移転し、改めて営業が開始された。ヨーロッパ合衆国スイス州にはカナダ政府から、毎月利益の5パーセントが送金される事になった。
カナダとしても新世紀日米戦争後の大日本帝国とヨーロッパ連合の対立、そして大日本帝国とヨーロッパ合衆国による新世紀冷戦により中立を堅持していた。それを確固としたものにするのが、スイス銀行の受け入れでもあった。そして『カナダ銀行』は新たな『世界の金庫番』となり、金融市場を一手に引き受ける事になったのである。
それがカナダで大日本帝国とヨーロッパ合衆国の外相会談が開催された理由であった。もはや世界中がどちらかの陣営であり、相まみえる中立国はカナダしか有り得なかった。
大日本帝国とヨーロッパ合衆国の外務大臣による外相会談は、カナダ大統領官邸で行われた。前日にはそれも史上初になるカナダ外務大臣と、大日本帝国・ヨーロッパ合衆国外務大臣それぞれとの外相会談が開催された。カナダが中立国となってから初めての外交活動であり、世界中からマスコミが押し寄せていた。しかもそのカナダで史上初の大日本帝国とヨーロッパ合衆国の外相会談が開催されるとあり、世界的な注目を集めていた。世界中のありとあらゆる耳目を集める事になり、カナダ大統領は大いに張り切っていた。
この外相会談はヨーロッパマフィアの関与について話し合う重要な会談であった。新世紀冷戦に於ける大日本帝国とヨーロッパ合衆国の対立は、今まで両国は交わることの無い関係にまで発展していた。独自の陣営に分かれた両国は互いに存在を無視する事で、新世紀冷戦を何とか綱渡り状態で乗り越えようとしていた。だが大日本帝国の言い分によるとヨーロッパ合衆国がヨーロッパマフィアを利用して、先に手を出してきた事になる。それをどうするか、史上初の外相会談にかかっていた。




