安全保障理事会2
休会を挟んで、再び安全保障理事会は開かれた。議長のアメリカ西岸連邦大使は、ヨーロッパ合衆国大使に反論を述べるように促した。議長に促されてヨーロッパ合衆国大使は口を開いた。
『ヨーロッパ合衆国は新世紀冷戦に於いて大日本帝国と激しい対立をしているが、だからと言って非正規戦を仕掛ける程には至っていません。今回の大日本帝国大使による我々への追求は全く以て事実無根であります。ヨーロッパ合衆国としては一切の関与を否定します。そもそも我々がそのような大規模な陰謀を企てる意味がありません。大日本帝国との壮絶な冷戦に対応するのが最優先であるのに、わざわざ犯罪組織を用いて騒乱を引き起こす労力は採算度外視にも程があります。ただでさえ大日本帝国と亜細亜条約機構という地球上で最大勢力を誇る集団に、たった1国で立ち向かっているのです。その点は我々の苦労をご理解頂きたい。それにヨーロッパマフィアでありますが、彼らのような者達を利用してどれ程の成果がありましょうか。良いところで多少なりの混乱を生み出すだけでしょう。現に大日本帝国と亜細亜条約機構ではヨーロッパマフィアは制圧され、治安は大幅に改善されたと聞いています。それだけの結果しか達成し得ないのなら、徒労であります。そして更に物的証拠として提示された対戦車ミサイルランチャーですが、それがヨーロッパ合衆国陸軍正式装備なのは認めます。ですが我が国の正式装備である為に大量生産により配備され、友好国の中東アフリカ諸国にも輸出されています。それがヨーロッパマフィアの手に渡ったとしても不思議ではありません。それ程の証拠しか無いのにも関わらず、我が国を非難するのは間違いであります。ヨーロッパ合衆国は一切の関与を否定します。我が国は無実です。』
ヨーロッパ合衆国大使はそう断言し反論を終えた。ある種予想された反論に、大日本帝国大使は小さくため息をついた。本国政府からもヨーロッパ合衆国は否定するかもしれないと言われていたが、それを見越して証人と証拠品を移送したのだ。だが結果的にそれも無駄に終わった。完全否定されてしまったのだ。議長のアメリカ西岸連邦大使は、大日本帝国にさらなる説明はありますかと聞いた。
大日本帝国大使は何とか知恵を絞り、語り始めた。もしヨーロッパ合衆国大使の言い分が正しいとするのなら、ヨーロッパ合衆国は軍の装備管理に重大な欠陥がある事。大量生産されて配備されているのは世界中どの軍隊でも同じ事で、それだからといって兵器が流出するのはあり得ない事。そうじゃないと言うのならヨーロッパ合衆国は確信犯として、兵器を故意に闇ルートに流出させた事になる事。故意に流出させたのでは無いと否定するなら、それはやはりヨーロッパマフィアを支援していたという証明になる事。
以上の点を大日本帝国大使は指摘した。それは的を得た指摘であった。その指摘に大日本帝国側陣営の大使は頷いた。更にはインド大使が手を挙げて、議長に発言許可を求めた。それは受け容れられ、インド大使は口を開いた。
大日本帝国大使の言う通りであり、ヨーロッパ合衆国には軍の装備管理に関して詳細を説明してもらいたい事。その内容に至ってはヨーロッパ合衆国は無理な国家統合の弊害が表れている事。その為に逆にヨーロッパ合衆国への疑惑は深まった事。
インド大使の言葉により議長のアメリカ西岸連邦大使は、ヨーロッパ合衆国大使に言葉を求めた。それに口を開いたヨーロッパ合衆国大使は、ヨーロッパ合衆国は軍の装備管理は厳格に行っている事。流出したり故意に流出させる事はありえない事。したがって我が国は無実である事。
事態は堂々巡りの議論に陥っていた。
『結局の所安全保障理事会も成果を出せなかった。大日本帝国大使は証人や証拠品を提示してヨーロッパ合衆国の関与を指摘したが、ヨーロッパ合衆国大使はのらりくらりと答えるだけであった。指摘されても動じない姿は、ある種開き直りともとれる態度だった。大日本帝国大使はそれでも根気強く指摘し、他の亜細亜条約機構加盟国の大使も順番に指摘したがそれでもヨーロッパ合衆国大使の態度は変わらなかった。そのやり取りが続き、サウジアラビア大使がヨーロッパ合衆国の関与を否定する演説を始めた事により、更に安全保障理事会は混迷を極めた。議長のアメリカ西岸連邦大使は何とか事態を収束させて、議事進行を続けようとしたがその努力は報われなかった。何回か休憩の為に休会したが、それ後の内容に一切変化は無かった。事態を重く捉えた大日本帝国大使は日を改めて安全保障理事会を再度行う事を提案した。その提案にヨーロッパ合衆国大使が即座に賛同し、各国大使も賛同した為に議長のアメリカ西岸連邦大使は閉会を宣言した。国連総会に続き安全保障理事会も何も成果を得られなかったのである。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋




