国連総会
アメリカ合衆国が崩壊した今となっては、国際連合本部ビルに隣接するイースト川に桟橋が建設されていた。国際連合本部ビルの敷地は国際連合の所有であり、分かりやすく言えば大使館と同じ扱いであった。構内は国際連合安全保安局によって治安維持が為されており、独自の警察・郵便局(国連切手を発行)が備えられていた。補給物資や郵便物は桟橋に到着する船で搬入出された。
そんな国際連合本部に大日本帝国以下亜細亜条約機構の連名による『ヨーロッパ合衆国への追求』が提起された。国連総会に提起された事により、事態は新たな段階に推移した。大日本帝国大使が中心となり、ヨーロッパマフィアからの証言や対戦車ミサイルランチャー等の物的証拠を次々と提示していた。それらはまさに動かぬ証拠であった。誰が何と言おうとも否定するのは難しかった。大日本帝国大使はヨーロッパ合衆国に対してヨーロッパマフィアを利用していた事に対して、許し難い内政干渉であると断言した。この新世紀冷戦の状態にある中で、このような事をすれば事態は緊迫の度合いを強めるのが理解できないのか、とも言い切った。亜細亜条約機構加盟国の大使もそれに賛同し、次々とヨーロッパ合衆国を非難する演説を行ったのである。
相次ぐ非難演説をヨーロッパ合衆国大使は黙って聞いていた。そして反論すると思われたが、ヨーロッパ合衆国大使に代わってサウジアラビア大使が反論した。中東アフリカ諸国はヨーロッパ合衆国の陣営に属していた為に、反論はするのは意外な事では無かった。サウジアラビア大使は演説を始めると、大日本帝国と亜細亜条約機構を非難した。自らの治安対策に欠陥があったのを棚に上げて、ヨーロッパ合衆国を非難するとは理解し難い。ヨーロッパマフィアの証言や対戦車ミサイルランチャーの物的証拠も、いくらでも捏造が出来る事。それらを根拠にヨーロッパ合衆国を非難するのは、傍若無人にも程がある。
このような内容であった。その反論演説にロシア連邦大使が即座に反論し、国連総会の会場は騒然となった。もはやヤジというよりも、言葉で殴り合う様相を呈していた。騒然とする会場に議長と国連事務総長の諌める声が響き渡った。特に国連事務総長は必死であった。ヨーロッパ合衆国成立とその後の安全保障理事会常任理事国選挙以来の、活発な国連外交である。毎年開催される国連総会の最初は各国の首脳による演説が行われていたが、それが行われ無くなって国連の権威は失墜していた。大日本帝国とヨーロッパ合衆国による新世紀冷戦は、もはや国連を見捨てていたのだ。だが大日本帝国と亜細亜条約機構は久し振りに国連を活用してくれたのである。国連事務総長が気合を入れるのは仕方なかった。
必死に会場を静める国連事務総長の姿に、各国大使達はようやく我に返った。冷静さを取り戻し落ち着いた各国大使達に、国連事務総長は事態を整理する事を提案し話し出した。大日本帝国と亜細亜条約機構各国は蔓延する麻薬密売事件に断固とした決意で対策をすると決めた事。その治安対策で取り締まりを行う中で、ヨーロッパマフィアが関与しているのが判明した事。そのヨーロッパマフィアに対しても取り締まりを行い大日本帝国に至っては、国内で蜂起を起こしたが鎮圧され殲滅された事。そしてヨーロッパマフィアも数人逮捕し対戦車ミサイルランチャーの物的証拠もあり、ヨーロッパ合衆国がヨーロッパマフィアを利用していたのが明るみになった事。それに対してはいくらでも捏造が出来るとして、反論が行われた事。
事態はそのように推移していた。国連事務総長はそこまでは相違ないか尋ねた。それに各国大使達は問題無いと答えた。そこで国連事務総長は安全保障理事会での討論に切り替えるのを提案した。常任理事国は大日本帝国・ロシア連邦・ヨーロッパ合衆国・エジプト・ブラジル・サウジアラビアの6ヶ国であり、ブラジルが大日本帝国寄りを表明している為にちょうど3対3の構図になっていた。それに非常任理事国もいる為に、国連総会よりはコンパクトに討論が出来るというのが国連事務総長の提案だった。
かつては安全保障理事会で拒否権行使を受けた議案を国連総会で再度討論するのが常であったが、新世紀冷戦の現状は逆に国連総会での討論が白熱し過ぎるという事態に陥っていた。もちろん拒否権は依然として存在する為に安全保障理事会での討論は頓挫するのは分かり切っていた。だが重要なのはどの国が拒否権を行使するかであった。拒否権行使はその国にとって不都合な事案に対して行われるのが常である為に、国連事務総長の安全保障理事会での討論という提案はどちらにとって不都合な事案なのか再度浮き彫りにさせるという目的もあった。
ある種の策略に似た提案だったが、国連総会よりもコンパクトに討論出来る安全保障理事会の方が都合が良いとして、大日本帝国とヨーロッパ合衆国は国連事務総長の提案を受け入れた。盟主が受け入れると答えた為に各陣営の国々も賛同し、議案は安全保障理事会で討論するという決議を国連総会は採択した。
これにより舞台は安全保障理事会へと移る事になったのである。




