活用方法
帝国議会で叶総理が所信表明演説を行っている同時刻。警察庁長官官房の官房長である警視監が部下を連れて、兵庫県神戸市にある神戸組総本部を訪れていた。警察庁ナンバー3の官房長は、実質的に警察組織全体としてもナンバー3になる為に、総本部周辺は神戸組組員と兵庫県警機動隊が共同で警備を行っていた。1991年の共闘関係樹立以来、このような光景は見慣れたものとなっていた。一貫しているのは依頼をする側が必ず出向いて行く、というものであった。その為に神戸組が大挙して、警察庁に訪れる事もあるのである。共闘関係樹立は政府発表としても行われていた。当初は国民世論も反対の声が大きかったが神戸組が圧倒的に優位に立った事で、ヤクザの抗争も激減し警察とヤクザの共闘関係により裏社会に於ける犯罪も激減した。これにより国民世論も警察とヤクザの共闘関係という、前代未聞の関係を容認するようになったのである。警察の旭日章は五角形であることから、『桜の代紋』との俗称がある事から、『表の桜代紋、裏の神菱代紋』と呼ばれていた。
『神戸組総本部で行われた会談に、神戸組は組長と若頭を筆頭に幹部陣が全員出席していた。これは逆の場合も同じで神戸組が何かしらの依頼で警察庁を訪れた時は、警察庁長官と次長・官房長を筆頭に幹部陣が全員出席する事になっていたのである。
今回の警察からの依頼は単純明快であった。叶総理が所信表明演説で語っているように、麻薬犯罪への対策強化であった。神戸組は麻薬追放国土浄化連盟を結成し[麻薬撲滅決起集会]を開催する程、麻薬には強い決意で対策を行っていた。神戸組は組織のシノギとして麻薬取引を禁止する程に、麻薬を敵視していた。それは警察としても有り難く、両組織が協調して麻薬対策を行っていた。だがそれでも年々増加する麻薬犯罪に対策の強化は急務となっていた。
要請を受けた神戸組はそれを快諾し、自分達が入手した情報を警察に提示した。その情報は年々増加する麻薬犯罪は、ヨーロッパマフィアが関与しているとの証拠を入手したとの内容であった。それは警察にとっては最悪の情報だった。警察庁での会議でもヨーロッパマフィアの関与は疑われていたが、可能性としての話であった。神戸組はヨーロッパマフィアの関与している証拠として動画を提示した。その動画にはヨーロッパマフィアと神戸組に対立する組織の、麻薬取引が映されていたのであった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争外伝〜麻薬戦争〜』より一部抜粋
神戸組から証拠動画を受け取った警察庁長官官房官房長は、神戸空港からティルトジェットで警察庁へ直行し帰庁した。そして警察庁長官以下幹部陣全員出席の緊急会議を開くように要請した。そして夕方には緊急会議が開催された。
緊急会議では神戸組の要請快諾は当然として、神戸組から提供された映像も公開された。そこに映されていたヨーロッパマフィアとの麻薬取引の映像は、警察庁幹部陣を慌てさせるには充分すぎる内容であった。想定していた選択肢の中で最悪過ぎた結果になってしまった。だがこれで国内のみならず亜細亜条約機構加盟国で麻薬犯罪が急増している原因が特定出来た。会議に於いて神戸組と協力して治安対策に取り組む事を決定すると、警察庁長官以下幹部陣は叶総理への報告の為に首相官邸に向かった。
首相官邸を訪れた警察庁長官以下幹部陣は、叶総理に麻薬犯罪が急増した理由を報告した。ヨーロッパマフィアが関与している事を聞いた叶総理は、烈火の如く怒りを顕にした。これはある意味でヨーロッパ合衆国からの宣戦布告といえる、と言い切ったのだ。慌てた警察庁長官は現状ではまだ警察力で対処します、と力強く断言した。その言葉を聞いた叶総理はある程度怒りを抑えたが、今後の対策について矢継ぎ早に質問した。警察庁長官は全国都道府県警察と厚生労働省麻薬取締部、そして神戸組の総力を挙げて麻薬犯罪を取り締まる計画を説明した。その計画を聞いた叶総理は、徹底的な取り締まりを命令した。更に叶総理はヨーロッパマフィアの規模を探る為に、I3(帝国情報捜査庁)を動員する事も明言した。それは警察と神戸組にとっては有り難い支援であった。そしてもしもヨーロッパマフィアの規模が大き過ぎる場合には、戒厳令の発令も視野に入れていると言い切った。これについては仕方ない事だと警察側は捉えた。ヨーロッパマフィアがここまで表沙汰にならなかったのは、地下に潜っていたからである。そうなるとヨーロッパマフィアがどれ程の規模で装備も不明であり、警察力とヤクザで対応出来るか分からない。警察もかつてのヤクザの抗争に対応して重武装化は行われていた。神戸組もある種警察の公認により重武装化されていたが、相手はヨーロッパマフィアである。どれ程のものかが想像出来なかった。
全てはI3の諜報能力に掛かっていたが、警察と麻薬取締部・神戸組が協力して麻薬犯罪に対処するという計画は既に開始されていた。




