緊急対策会議
イラン戦線が突破された事を受けてシャーロット大統領は、ヨーロッパ合衆国ドイツ州ミュンヘンの大統領官邸にて緊急対策会議を招集した。シャーロット大統領はロシア戦線での優勢を確信しており、イラン戦線は暫くは後回しにする予定であった。2戦線での同時進行は避けたかったが、まさかの相手から2戦線での同時進行を仕掛けて来たのであった。だがそれはある種事態打開の為の措置であると、国防大臣は語っていた。自分達だけに出血させるのでは無く、相手も出血を強いる為に隙をつくのは当然の方法でもあった。
更にはロシア戦線での劣勢で士気が低下するのを阻止する為では無いかと、国防大臣は推測していたのである。そう推測出来るようにロシア戦線は、ヨーロッパ合衆国が優勢であった。ロシア戦線の防衛線を突破したヨーロッパ合衆国陸軍は、ロシア連邦首都モスクワに100キロの距離までに迫っていた。
だが順調なロシア戦線に対してイラン戦線は、壊滅的打撃を受けていたのである。ヨーロッパ合衆国陸軍はイラン戦線に、180個師団と人造人間師団380個師団の360万人と760万体を展開していた。だが想像を絶する大日本帝国軍の猛攻により、180個師団の内150個師団が全滅。人造人間師団に至っては、380個師団の内370個師団が全滅した。空軍の偵察衛星が捉えた映像が映し出されたが、シャーロット大統領以下全員が言葉を失った。業火に焼かれ炭化した物体が未だに燻ぶり続けており、更には戦車や自走超電磁砲・歩兵戦闘車等の装甲車輛も溶解物として点在していたのである。
閣僚で最年少である法務大臣は、あまりの光景に口元を抑えて部屋を退出していった。他の閣僚も目を逸らす凄惨さであるが、ただ一人シャーロット大統領は映像を直視し続けた。そして国防大臣に対応策はあるのか尋ねた。国防大臣は叱責を覚悟で、対応策は全く無いと答えた。それよりも事実上イラン戦線は崩壊し、亜細亜条約機構軍の反攻が開始される為に早急にイランから完全撤退し、イラク州・クウェート州・トルコ州・アルメニア州・アゼルバイジャン州の防衛線にて亜細亜条約機構軍の侵攻を食い止めるべきだ、と国防大臣は力説したのである。人造人間を生産する間に万が一に備えて、占領であり併合した地域に対して構築していた防衛線であるがまさか役に立つ機会が訪れるとは思ってもいなかった事態であった。だがそれは現状では最優先事項でもあった。特に重視すべきは、トルコ州・アルメニア州・アゼルバイジャン州の防衛線でありここを突破されると、ロシア戦線を後方から攻撃される恐れがあったからである。そうなると優勢なロシア戦線でも一部が挟撃される事になり、ロシア戦線も崩壊する恐れがあった。
シャーロット大統領はそれは由々しき問題であるとして、国防大臣の意見を採用する事を決定した。これによりイランからの完全撤退が行われる事になり、イラク州・クウェート州・トルコ州・アルメニア州・アゼルバイジャン州の防衛線には更なる増援を派遣する事も決定された。だがシャーロット大統領は亜細亜条約機構海軍がペルシャ湾に展開し続けている限りは、その防衛線も壊滅させられるのでは無いかと尋ねた。国防大臣は海軍が本土沿岸防衛として運用している以上は、空軍と通常弾頭の弾道ミサイルによる飽和攻撃によって何とか撃退する事を宣言したのである。