ヨーロッパ合衆国の対応
午前11時。ヨーロッパ合衆国ドイツ州ミュンヘンの大統領官邸でシャーロット大統領は対策会議を開催した。その内容は月面基地陥落に関するものであった。状況としては非常に憂慮すべき状況となっていた。地球上ではロシア戦線とイラン戦線で膠着状態に陥り、大日本帝国の後方撹乱を目的とした通商破壊戦も阻止され、人造人間不足により攻勢も行えず必死に増産を行っている最中であった。その地球上での劣勢を覆す為に行われた大日本帝国月面基地侵攻も、大日本帝国の不断の努力による増援派遣で侵攻は阻止されあまつさえ逆侵攻を許し月面基地が占領されてしまったのである。これは由々しき事態であるがシャーロット大統領が決断したように、ヨーロッパ合衆国は大日本帝国と違い往還宇宙船を実用化出来なかった為に援軍派遣は、通常ロケットの大量打ち上げによるピストン輸送しか方法が無かった。そうなると大日本帝国より時間がかかる為に、援軍派遣のスピードによる差が大き過ぎる為に月面基地は見捨てるという決断に至ったのである。
シャーロット大統領は対策会議で、月面基地を失った事に関する損失について尋ねた。それは財務大臣が代表して答えたが、現状での月面基地陥落による損失は無いと断言した。それはヨーロッパ合衆国がトルコ侵攻に端を発する事に、中東アフリカ諸国を侵攻し併合した事が最大の理由であった。月面基地は研究を行っていたが、月面からの鉱物資源採取も行われていた。しかし月面から採取する鉱物資源量以上に、中東アフリカ諸国の併合から得られる鉱物資源量の方が圧倒的に多かったのである。更に中東アフリカ諸国からは鉱物以外の資源も採取出来る為に、月面基地陥落に関する損失は研究分野のみになるのであった。
その報告を聞いたシャーロット大統領は安心したように頷いたが、科学技術大臣は長期的視野で見ると大日本帝国に宇宙での研究分野で差を広げられ、将来には所謂遺失利益として弊害が現れる事を付け足した。だがそれはシャーロット大統領にとっては第三次世界大戦に勝利し、大日本帝国を支配下に入れての地球統一政府を樹立すれば解決する事だと判断していた。
問題は膠着状態にある第三次世界大戦をどのように進展させるかにあった。シャーロット大統領は国防大臣に人造人間の生産体制について尋ねた。尋ねられた国防大臣は軍が要求する絶対数の15パーセントしか未だに生産出来ておらず、絶対数の確保には最低3ヶ月が必要だと語った。しかし3ヶ月の時間は大日本帝国や亜細亜条約機構、対ヨーロッパ合衆国大同盟にも有利に働き予備役招集と訓練の時間を与える事になると、語ったのである。シャーロット大統領はそれは致し方無いとして引き続き人造人間の生産を拡大させると共に、空軍を活用してロシア戦線とイラン戦線での戦いを激化させるように言い切った。
何とか2つの戦線で出血を強いらせ膠着状態を打開する目的があったが、大日本帝国はヨーロッパ合衆国が忘れかけていた場所で活発な動きを開始しようとしていたのである。