月面の所有権
午前10時。月面での戦い終結と降伏文書調印を経て、大日本帝国帝都東京首相官邸では叶総理により対策会議が開かれていた。対策会議は内閣閣僚全員と軍首脳陣という通常の参加者だけで無く、ヨーロッパ合衆国月面基地占領に伴い月が大日本帝国の支配下になった事による民家利用拡大も兼ねている為に、大学や民間企業からも対策会議に参加してもらっていた。その為に対策会議の開催
である首相官邸大会議室は、何時もより出席人数が多くなっていたのである。
対策会議は叶総理による挨拶兼状況説明から始まった。叶総理は人類史上初の地球外に於ける戦闘での勝利と、これまた人類史上初の地球外でのヨーロッパ合衆国月面基地占領という、大日本帝国が未だかつて経験した事の無い事態にあると断言した。これはヨーロッパ合衆国との第三次世界大戦が引き起こした突発的な異常事態であり、新たに『月面の所有権』という難題に取り組まないといけなくなったと語ったのである。確かに難題であった。ヨーロッパ合衆国月面基地も戦時中という事もあり暫定措置として大日本帝国が統治するのは決定事項であり、これにより月という地球の衛星がこれまた人類史上初めて大日本帝国という単一国家により支配される事になったのだ。
叶総理は政府見解として宇宙条約を大日本帝国としては遵守しており、現時点での月領有宣言は時期尚早だと判断していると語った。この『現時点での』という言葉に東京帝国大学の准教授は疑問を投げ掛けた。『現時点での』という事は将来的には月の領有宣言が有り得るのですか。という内容であった。それに叶総理はヨーロッパ合衆国を打ち倒し、大日本帝国主導により地球統一政府が樹立されれば有り得ると、断言したのである。
だがそれはかなり先の事になるとして、現時点での月の活用法を話し合う事が優先された。活用法では大学関係者は月の調査がヨーロッパ合衆国を気にする事無く、月全土で行える事から調査の拡大が提起された。そして更にIAXAと共同開発している月面車に代わる月面ティルトジェットの早期実用化も併せて要請したのである。月面ティルトジェットは政府としても今回の月面での戦闘で必要性を痛感しており、更なる予算投入が決定された。
民間企業は月面旅行の更なる拡充を求めた。現状での月面基地のみならず、ヨーロッパ合衆国月面基地も利用可能となった以上は当然の措置であると要請したのである。これも政府は了承し更に往還宇宙船伊邪那美と月往復用大型宇宙船月読命に代わる、新型宇宙船の開発予算増額を決定したとも語った。しかも本格的に『反重力装置』や『重力発生装置』、『恒星間航行技術』に対しての研究開発予算を増額させる事も発表した。その為に大学や民間企業に至る全てに於いての協力も要請された。
大日本帝国は第三次世界大戦という戦時中でありながら、太陽系全域への進出という野望を着々と進めていたのである。