完全制圧
ヨーロッパ合衆国月面基地に入った海兵両用作戦部隊は、総司令直々の案内により中央司令タワーでの降伏文書調印式を行う事になった。
『降伏文書調印式はヨーロッパ合衆国月面基地から、総司令と副官そして技術部門責任者と研究部門責任者が参加し、大日本帝国からは海兵両用作戦部隊司令官である大佐と最初に総司令とやり取りを行った中尉そして海兵両用作戦部隊が持ち込んだ機材でデータリンクを行い、地球の首相官邸地下の危機管理センターとも繋ぎ叶総理が直々に参加する事になった。
ヨーロッパ合衆国月面基地総司令は叶総理も参加する事に驚いたが、それ程の事態であるのは確かだと思い納得した。一言で降伏文書調印式と言っても人類史上初となる地球外に於いての戦闘と、その降伏処理である。人類の歴史上初めての試みであり、大日本帝国が叶総理自ら責任を持って統括するのは当然といえた。
降伏文書調印式に先立ち叶総理はヨーロッパ合衆国月面基地総司令に対して、降伏を決意した事の勇気と判断力に感謝を示し穏便に解決出来る事による利点を強調した。その言葉に総司令はお礼を述べたが、ヨーロッパ合衆国政府シャーロット大統領への非難は激しいものであった。驚く叶総理はヨーロッパ合衆国政府の判断はどのようなものだったのか、尋ねた。
総司令はシャーロット大統領はヨーロッパ合衆国が大日本帝国と違い、宇宙船に於いて柔軟性を欠いている事から月面基地への援軍派遣を認めず月面基地そのものを見捨てたと、シャーロット大統領への怒りを顕にした。驚く叶総理であったがIAXA長官がすかさず補足し、ヨーロッパ合衆国の宇宙機関ESAは軌道基地オリュンポスを完成させたが大日本帝国IAXAと違い往還宇宙船伊邪那美に匹敵する宇宙船が開発出来なかった。その為にアリアン9の大量打ち上げによる輸送が行われ軌道基地オリュンポスにて、月往復用大型宇宙船アルゴーまでは建造出来たが往還宇宙船を保有していない事は、大日本帝国と違い軌道基地への行程に難儀する事になったのである。
その為に侵攻に失敗した事で月への到達レースにヨーロッパ合衆国はハンデがあるとして、シャーロット大統領は援軍派遣を認めず月面基地を見捨てる決断をしたのでしょう。そうIAXA長官は語ったのである。それを聞いていた総司令もその判断が全て正解だとして、月面基地そのものを降伏した以上は大日本帝国に委ねる事を宣言した。驚く叶総理であったが、取り敢えずは降伏文書調印式を進める為に総司令と大佐が降伏文書にそれぞれヨーロッパ合衆国と大日本帝国を代表して調印。これにより2049年1月24日午後10時28分。月面基地に於ける戦闘は完全に終息し、ヨーロッパ合衆国月面基地は大日本帝国により占領される事になった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋