報復策
月面タワーの危機管理センターと、地球の大日本帝国帝都東京首相官邸地下の危機管理センターにて、遠隔会議が行われ月面基地防衛戦の概要が報告された。2049年1月24日午前5時15分の事であった。この間叶総理以下閣僚達や軍首脳陣は報告を待ち望んでいたのである。そしてその待望の報告が齎され、結果が先に報告され月面基地防衛戦は大日本帝国軍の大勝利だと判明したのである。その報告に叶総理以下政府首脳陣、軍首脳陣は歓声を上げた。
時間との戦いであった援軍派遣も成功し、月面基地そのものも防衛する事が出来たのである。まさに大勝利であった。その報告に安堵した叶総理であったが、事態収拾と再発防止の観点から海兵両用作戦部隊の月面派遣は続けるとしていた。だが問題なのはヨーロッパ合衆国への対応であった。今回の事態はヨーロッパ合衆国の明らかな宇宙条約違反であり、安易な対応ではヨーロッパ合衆国は味をしめて再度の月面基地侵攻を行うかもしれない。単純明快な報復策を決める必要があったのである。
叶総理は国防大臣にヨーロッパ合衆国への報復策についての案が無いか尋ねた。尋ねられた国防大臣は暫く考えたが、遠慮がちに1つの提案を行った。かつて我が帝国で流行った戦艦大和を宇宙戦艦とするSFアニメのように、宇宙で戦える宇宙船を保有していない以上は月にあるヨーロッパ合衆国の月面基地は物理的に破壊不可能である事。しかし軌道基地きぼうから月に至る月往復用大型宇宙船として月読命を保有しており、少々危険度は高いが月読命をヨーロッパ合衆国の月面基地周辺に降下させ、海兵両用作戦部隊の人員を送り込んで占拠するのが報復策として、ヨーロッパ合衆国に最大限の打撃を与えるのでは無いか、そう国防大臣は提案したのである。
それは確かに成功すれば打撃を与えるのに最適な報復策であった。しかし不確定要素が多い報復策でもあった。まずはヨーロッパ合衆国の月に於ける兵力が今回全滅した数だけなのか、次に兵力が存在しなかったとしてたかが数百人の海兵両用作戦部隊の人員で占拠出来るのか、捕らえたヨーロッパ合衆国月面基地の民間人はどうするのか、懸念点は多かった。
国防大臣の提案を聞いた叶総理以下閣僚達や軍首脳陣は悩んだ。しかし1人だけIAXA長官だけは月読命が危険に晒されすぎるとして、断固として反対した。それは当然の反対であった。IAXAとして2隻しか保有していない月読命をむざむざ失う可能性のある作戦に投入出来る筈が無かった。叶総理は暫く悩んだが、国防大臣の提案を採用する事にした。現状でヨーロッパ合衆国に対する報復策として国防大臣の提案以上に効果的なものは存在しないからである。叶総理は不確定要素の解決策も提示する事にした。まずはヨーロッパ合衆国の月面基地に兵力が存在するか否かであるが、これに対しては月読命2隻で送り込む400人で対処する事にした。兵力が存在すれば殲滅し兵力が存在しなければ、占拠する。その為にも現在月面基地に存在する海兵両用作戦部隊の兵力を、月読命でピストン輸送し増援とする事にした。捕らえたヨーロッパ合衆国月面基地の民間人に対処する為に、送り込む海兵両用作戦部隊はヨーロッパ合衆国月面基地占領部隊として、派遣する事とする。IAXA長官の懸念点もある為に最初にヨーロッパ合衆国月面基地に降下させる月読命は1隻だけにし、攻撃を受ければ占領作戦は一時的に中止し月面基地から離れた場所に降下し、海兵両用作戦部隊には徒歩による進軍を行ってもらう事。以上を叶総理は提示したのである。
これには国防大臣や海兵隊総司令官も賛同し、IAXA長官も月読命に対する危険性は少ないとして賛同した。月面基地の海兵両用作戦部隊司令官も作戦に賛同した事から、ヨーロッパ合衆国への報復策は月面基地占領に決定した。