静まる月面
月面に飛び火した戦火は無事に抑え込まれた。ヨーロッパ合衆国陸軍は大日本帝国月面基地侵攻に投入した500人を全て失ったのである。戦死者は358人を数え、負傷者は32人、降伏し捕虜となったのは110人であった。移動に使用した月面車50輌を全て失ったのが、ヨーロッパ合衆国陸軍にとっては最大の敗因となった。撤退しようにも月面車が無ければ移動する事は叶わないからである。何せ大日本帝国とヨーロッパ合衆国のお互いの月面基地は、1700キロも離れているのだ。地球と同じ感覚で徒歩で逃走しようにも月の表面温度は、昼間は110度程度に、夜間はマイナス170度程度となり昼夜で200度以上もの差があるのだ。これは月には大気が無い為に引き起こされているのだが
、こうなると宇宙服が不具合を起こす可能性もありそもそもとして宇宙服の酸素容量を使い果たす事になり、どちらにしても帰還は絶望的だ。とてもでは無いが1700キロを徒歩で帰還する事は出来ないのである。
地球と違いティルトジェットを気軽に飛ばせる事は出来ないし、ティルトジェットに代わる小型宇宙船も航続距離の関係で迎えに来てもらうのも不可能であった。その為にヨーロッパ合衆国陸軍の生存者は降伏するしか選択肢は無かったのである。降伏を受け入れた大日本帝国陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊と海兵隊海兵両用作戦部隊の兵士達は、負傷者と捕虜を移送し負傷者は月面基地の病院に送り、捕虜は憲兵隊司令部に拘留した。その後戦死者の遺体回収を行い、丁重に葬る事にされたのである。
その間に大日本帝国軍の陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊司令官と、海兵隊海兵両用作戦部隊司令官の2人の大佐は月面タワーに向かい月面基地責任者の総督に報告を行った。総督は司令官である2人の大佐に感謝を述べたが、月面タワーに命中したヨーロッパ合衆国陸軍の対戦車ミサイルによる爆発で一室にいた8人の民間人が宇宙空間に放出され、亡くなった事を報告した。それを聞いた2人の大佐は痛恨の極みであるとして、謝罪の言葉を口にすると頭を下げた。
だが総督は2人に頭を上げさせると、活躍が無ければこの月面基地自体が占領されたかもしれないし、もっと多くの犠牲者が出たかもしれないとして、改めて2人の大佐に感謝を述べた。それを聞いた2人の大佐は少し複雑であったが、気持ちを切り替える事にしたのである。今回の月面基地防衛戦で陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊と海兵隊海兵両用作戦部隊は、29人の戦死者を出していた。負傷者は6人であり、総合的判断をすれば大勝利といえる結果であった。
総督は2人の大佐に地球への報告を行う事を提案し、2人が賛同した事で全員で月面タワーの危機管理センターに向かう事にしたのである。