月面の死闘2
『月面タワーに直撃したヨーロッパ合衆国陸軍の対戦車ミサイルは、月面タワーの一角を完全に吹き飛ばした。対戦車ミサイルはL558機関銃の銃弾と同じく音がする事無く飛翔し、月面タワーを直撃し爆発したが見た目の爆発の割には音がしない為に不思議な光景を齎した。映画やアニメのSF作品では派手な爆発と音が描写されているが、それは視覚的聴覚的効果の為であり身も蓋も無い言い方をすればただの見栄えの為であった。
実際に戦闘に参加した陸軍憲兵隊と海兵両用作戦部隊の兵士に戦後取材を行い当時の状況を聞いたが、一様に見栄えに対する静寂に困惑していたと語っていた。しかし音がしない爆発であるが、月面タワーに対する被害は深刻であった。月に大気が無く空気も存在しない為に、月面基地の建物は空気生成装置が設置され建物内は与圧されていた。その為に月面タワーへの対戦車ミサイルの直撃による爆発は、急激な減圧を発生させ数多くの人間を月に放出させる事になってしまったのである。
月面タワーに対する深刻な被害を目の当たりにした大日本帝国軍の2人の大佐は、自分達の部隊である陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊と海兵隊海兵両用作戦部隊に対して射撃を命令したのである。その命令を受け42式自動小銃と45式機関銃を持つ兵士達は射撃を開始した。42式自動小銃にはグレネードランチャーが装着されており、事前の作戦会議通り直接照準による水平射撃を行った。対戦車ミサイルランチャーを装備する兵士も、敢えてロックオンせずに直接照準にて水平射撃を行っていた。大気が存在せず空気抵抗が無い為に速度は減退する事無く、飛翔を続ける為に直接照準による射撃でグレネードランチャーや対戦車ミサイルは即座にヨーロッパ合衆国陸軍を吹き飛ばした。音がしない為に見た目だけの爆発しかしないが、効果的にヨーロッパ合衆国陸軍の兵士や月面車を破壊していった。
ここまで激しい反撃を受けるのを想定していなかったヨーロッパ合衆国陸軍は、目に見えて狼狽えていた。自分達の優位性を確信していたのである。だがその甘い認識は自らの命をもって償う事になったのである。42式自動小銃と45式機関銃による銃撃の合間にも、グレネードランチャーと対戦車ミサイルによる攻撃は続けられヨーロッパ合衆国陸軍の月面車を次々と破壊していった。大日本帝国軍の2人の大佐は攻められるという状況を逆手に取り、月面車を全滅させて帰還する手段を断つ事にしたのである。そうすれば敵は弾が尽きると降伏するしかないとの判断であった。
ヨーロッパ合衆国陸軍も当初は狼狽えながらも反撃を続けていたが、月面車が次々と破壊され味方も倒れていく様に反撃は徐々に弱まっていった。そしつ最後の月面車が破壊されるとヨーロッパ合衆国陸軍は降伏を決意。司令官の大佐は戦死しており、生き残りの最高位である大尉が銃撃を中止させた。そして全員に武器を捨てさせると、手を上げて降伏する意思を示したのである。2049年1月24日午前3時24分の事であった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋