対立激化
ヨーロッパ合衆国の成立は世界を驚かせた。GDPと軍事力が世界第2位の国家が誕生した。ヨーロッパ合衆国は矢継ぎ早に次々と改革を行い、難航していた各国のメーカー統合を推し進めた。そして大日本帝国に対抗して軍拡競争と宇宙開発競争を加速させると宣言したのであった。
国際連合本部では安全保障理事会常任理事国の改革について話し合われた。常任理事国が3ヶ国だけというのは世界的な組織として極めて不都合であった。そして常任理事国を再び増やす事が決定し、アフリカと中南米・中東の各地域からそれぞれ1ヶ国を選出する事になった。そうして常任理事国を6ヶ国にする事になった。そうと決まれば後は早かった。国際連合緊急総会が開催され、各地域から立候補した国々に対して投票が行われ、アフリカはエジプトが、中南米はブラジルが、中東はサウジアラビアがそれぞれ常任理事国に当選した。これにより安全保障理事会常任理事国は大日本帝国・ロシア連邦・ヨーロッパ合衆国・エジプト・ブラジル・サウジアラビアの6ヶ国となった。2025年11月30日の事であった。
ヨーロッパ合衆国の成立は大日本帝国にとって、大きな脅威となった。まさか国家統合という手段を採るとは思ってもいなかった。ヨーロッパ合衆国は大軍拡と宇宙開発を加速させると発表していた。大日本帝国は緊急閣議でヨーロッパ合衆国への対抗策を練ることにした。I3(帝国情報捜査庁)長官がヨーロッパ合衆国の動向について説明すると、全てに於いて今までの多国間に於ける競合が無くなり、ヨーロッパ全域が文字通り1ヶ国になった事で、生産性の合理化や技術開発の加速、大日本帝国に対抗するという明確な目標がある事、これにより凄まじい速度で軍拡と宇宙開発が進むと結論付けていた。これを聞いた総理大臣以下閣僚達は慌てた。今までは大日本帝国の経済成長を受けて圧倒的に軍備と宇宙開発で優位に立っていたが、ヨーロッパが統合した今となってはそれが危うい所にあると分かったからである。その中で国防大臣と軍首脳陣だけが落ち着いていた。総理大臣は国防大臣に現状の大日本帝国軍について説明を求めた。
2014年から5ヵ年計画で行われた『第6次国防力整備計画』は大日本帝国軍をさらなる高みへと飛躍させていた。第6次国防力整備計画は各種新兵器が実用化され配備された。それは極超音速ミサイル・無人機・電磁投射砲・電磁カタパルトになる。
まずは極超音速ミサイルである。極超音速ミサイルはマッハ 5 以上の極超音速で飛翔するミサイルのうち、飛翔行程の大半で弾道軌道を描かず高度数10キロ以上の大気圏上層部を飛翔するミサイルである。大日本帝国が世界で初めて開発し実用化し、陸海空3軍全てが配備し、地上発射型・艦上発射(VLS)型・空中発射型の3種類になる。3種類はスクラムジェットエンジンを搭載し最終的にはマッハ30近い速度まで加速する。ここまで早いと既存の迎撃システムでは対応不可能とまで言われる程になっていた。更に海軍連合艦隊の艦艇が搭載する巡航ミサイルと対艦ミサイルはスクラムジェットエンジンを搭載した新型に更新されていた。
無人機は空軍の偵察機や海軍の哨戒ヘリコプターが実用化され、配備された。更には小型ドローンも実用化され、陸軍や海兵隊が作戦に於いて使用する偵型と察自爆型ドローンが実用化された。
電磁投射砲は極超音速ミサイル同様に、大日本帝国が世界で初めて開発し実用化した。もともと電磁投射砲の概念となった電磁加速装置はIAXAが組織統合前の宇宙開発事業団が開発を進めていた。宇宙空間に於けるデブリの衝突による被害を地上で再現する為に、電磁加速装置は開発された。それに国防省が目を付けて共同開発に発展した。その後に極超音速ミサイルの開発も始まり、唯一極超音速ミサイルを迎撃可能な兵器という事で開発は加速された。そして電磁投射砲は海軍連合艦隊の艦艇搭載型と陸軍の戦車と自走砲の主砲に採用され実用化された。
電磁カタパルトはトラック宇宙基地の往還宇宙船伊邪那美用の大型電磁カタパルトを小型化して、海軍連合艦隊空母機動部隊の各空母に設置された。イージス原子力空母大和級は電磁カタパルトに必要な電力は十分にあった為に改装工事を行うだけですんだが、イージス空母翔鶴級は通常動力空母であり発電量も足りず艦齢も長くなって来た為に退役が決定した。そしてイージス原子力空母大和級が更に3隻(土佐・駿河・出雲)を建造し電磁カタパルトを搭載する事になった。退役させる翔鶴級3隻は新世紀日米戦争に勝利した武勲艦として、記念艦とさせる事が決まった。
以上の事から国防大臣も軍首脳陣も危機感は無かった。単純にヨーロッパ合衆国より軍事技術で15年は先を進んでいる、というのが冷静に分析した結果だとも伝えた。勿論油断は出来ずヨーロッパ合衆国が凄まじい速度で軍拡を決意した以上は、追い付かれる事は十分にあり得た。だが明日明後日の逼迫した危機では無く、我々は落ち着いて冷静に前進し続けるだけだと国防大臣は断言した。その言葉に総理大臣と閣僚達は落ち着きを取り戻し、総理大臣はまずは月面基地建設に全力を挙げるように命令した。軌道基地での月往復大型宇宙船月読命の建造は順調に進んでおり、計画は予定通りであった。