援軍派遣
叶総理は海兵隊の海兵両用作戦部隊を援軍として派遣する事を決定したが、次なる課題は規模と時間であった。1個海兵両用作戦部隊は4400名から構成され、その内で戦闘要員は4000名であった。月面基地に1個海兵両用作戦部隊4400名を送り込む必要があるが、それだけの人員を一気に送り込む事は不可能である。その為に叶総理の決断を聞きIAXA長官が即座に声を上げたのであった。
現状で月面基地に行くにはまずはトラック宇宙基地から伊邪那美に乗り込み軌道基地きぼうに移動、軌道基地きぼうに到着すれば宇宙ドックの月読命に乗り込み月に移動し、ようやく月面基地到着となる。トラック宇宙基地から軌道基地きぼうには伊邪那美での移動で1時間、軌道基地きぼうから月面基地には月読命での移動で10時間、軌道基地きぼうから月読命への乗り換え等諸々の時間が1時間掛かるとしても、合計12時間が必要となっていた。
かつてアメリカ合衆国が『アポロ計画』に於いて月に到達するまでに、平均して約3日掛かっていた事を考えると僅か半日で地球から月まで行く事が出来たのである。この事から時間は特に問題では無かったが、IAXA長官は伊邪那美と月読命の人員輸送力に難点があるとして不可能だと言ったのだ。トラック宇宙基地から軌道基地きぼうまでの移動に使われている伊邪那美は最大搭載人数は50人となっていた。トラック宇宙基地の大型電磁カタパルトで射出される方式の宇宙船である為に、あまり大型化は出来ない為にこの搭載人数となったのである。
軌道基地きぼうから月面基地までの移動に使われている月読命は最大搭載人数200人となっていた。月読命の方が搭載人数が多いのは宇宙ドックで建造し宇宙空間だけでの運用を行う為に大型化が可能であり、更にトラック宇宙基地には電磁カタパルトが4基設置されており伊邪那美が4隻同時に射出され軌道基地きぼうに到達し、その人員を月面基地に一気に輸送する必要があったからだ。そしてトラック宇宙基地には伊邪那美が予備も含めて10隻、軌道基地きぼうには月読命が2隻配備されていた。ヨーロッパ合衆国の月面車が月面基地に到達するまでの時間が17時間を切った今では、最大で400名しか月面基地に送り込む事しか出来なかった。軌道基地きぼうから月面基地まで10時間で移動可能だが、それは片道の時間である。往復で考えると帰ってくる途中で時間切れとなってしまうのだ。
IAXA長官の意見は現実的な意見であったが、叶総理は400名でも送り込めるだけマシだと考えていた。叶総理は陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊司令官の大佐に、400名の援軍で間に合うか尋ねた。大佐は少し思案した顔をしたが、考えを纏め400名の援軍が来れば700対500となりある程度は戦える事を伝えた。広大な月面基地、民間人5000人という事を考えると700人でも少な過ぎるが300人よりはマシであるといえる状況であった。
陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊司令官の返答を聞いた叶総理は、即座に決断し国防大臣に対して1個海兵両用作戦部隊の月面基地派遣を命令した。IAXA長官にはトラック宇宙基地と軌道基地きぼうの受け入れ体制、伊邪那美と月読命の出撃準備を命令した。時間との勝負であった。