治安維持
2049年1月23日午前9時30分。大日本帝国月面基地の中心地にある月面タワーの危機管理センターにて、緊急の対策会議が開催された。参加者は月面基地責任者の総督、治安維持責任者の陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊司令官を筆頭に、研究部門や補給部門・購買部門・インフラ部門の各責任者であった。事態が事態だけに既に地球の大日本帝国国防省とIAXAには報告されており、地球でも大騒ぎになり即座に叶総理にも報告された為に月面タワーの危機管理センターにある大型モニターには、首相官邸地下の危機管理センターからの映像が映し出されていた。平時から大量の衛星を介して地球とデータリンクを行っており、遠隔会議は行っていたがまさかこのような緊急事態に行う事になるとは思っていなかった。
対策会議にて事態の推移について、治安維持責任者の陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊司令官の大佐が自ら説明を始めた。事態は30分前に月分割地点にて申告無しのヨーロッパ合衆国の月面車が侵入して来た事から始まった。当初は当日申告によるサンプル採取だと思われたが、確認しても申告はされていなかった。事態の深刻さを察知した担当士官の判断により、事態は即座に報告され現在の対策会議に至ると語ったのである。そして侵入時に監視カメラの前を通過する時の映像が流されたが、その月面車は50輌を超えていた。月面車1輌辺り10人の乗車だとして、500人はいる計算になった。大日本帝国月面基地に駐留する治安維持要員としての陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊は、部隊編成は地球上での編成と違い特殊性がある為に単純に『部隊』と呼称し、人員は300人により編成されていた。
『攻めは守りの3倍』というが200人の差はなかなかの差でもあった。守る側に利点はあるがだからといって広大な月面基地を300人で守るのは圧倒的に不利となる。しかも守るべき民間人は5000人もいるのだ。唯一の救いとしては大日本帝国月面基地とヨーロッパ合衆国月面基地の距離にあった。大日本帝国が月の北半球側にヨーロッパ合衆国が月の南半球側に、それぞれ月面基地を建設した為に各月面基地間の距離は月の半径である約1700キロ離れていたのである。その為に月分割地点は各月面基地からは850キロにあり、月面車の速度がヨーロッパ合衆国製の物も時速50キロだと仮定すれば到達は約17時間後になる。大佐は最後に早急な援軍派遣を求めると説明を終えた。
大佐の説明を聞いた叶総理は端的に、現有兵力で守りきれる事が可能か尋ねた。叶総理はまずは可能性が有るのか無いのか、率直な意見、結論を求めた。その意見により送るべき援軍の規模を判断する構えだった。尋ねた大佐は叶総理の意図を明確に理解し、守りきるのは確実に不可能だと断言した。武器が42式自動小銃と44式自動拳銃だけであり、ヨーロッパ合衆国が対戦車ミサイルランチャーを装備している可能性もあると語ったのである。42式自動小銃は拡張レールが標準装備されており各種アタッチメントが装着可能であるが、陸軍憲兵隊月面基地派遣部隊は治安維持が任務である為に、グレネードランチャーのアタッチメントは装備に含まれていなかった。それさえあればある程度は戦えるが、光学サイトやレーザーポインター・アンダーグリップ等しか装備していなかった。
それを聞いた叶総理は援軍として、現状は地球上で作戦展開をしていない海兵隊の海兵両用作戦部隊を派遣する事を決定した。