方針撤回
ヨーロッパ合衆国ドイツ州ミュンヘンの大統領官邸では、シャーロット大統領が対策会議を開催していた。内容はロシア戦線での全面攻勢についてである。この方針について再度深く掘り下げる必要があった。何せ斥候部隊との小競り合いから始まった戦闘をこれ見よがしに利用して、ロシア戦線に於いて全面攻勢を行ったが5日が経過しても一向に成果が上がらなかったのである。
シャーロット大統領は対策会議に於いて、国防大臣に戦況について尋ねた。国防大臣は説明を始めたが、その口調は重かった。ロシア戦線全体に対する侵攻を開始したヨーロッパ合衆国軍であったが、それはものの見事に阻止され続けていた。大日本帝国陸軍の防衛線ではそれは顕著であり、全ての侵攻部隊は返り討ちにあっていた。その他のロシア戦線に於ける防衛線も、ロシア連邦陸軍・アメリカ西岸連邦陸軍・中華連邦陸軍・インド陸軍の部隊に阻止されていた。ヨーロッパ合衆国も空軍と陸軍による共同での攻撃を行っていたが、それは見事に不発に終わっていたのである。だがヨーロッパ合衆国にとっては逆侵攻が行われない点が、唯一の救いともいえた。
ロシア戦線に展開する大日本帝国陸軍以下亜細亜条約機構軍は、頑なに防衛線を守り持久戦を行っていたのである。それを国防大臣は兵力不足による被害の拡大を防ぎ、兵力温存と持久戦による相手への出血を強いる事が目的であるとみていた。兵力不足はヨーロッパ合衆国にも同じ事がいえる為に、これ以上の侵攻は中断し方針撤回が最優先であると国防大臣は言い、シャーロット大統領への説明を終えたのである。
シャーロット大統領はその説明に怒りを感じたが、兵力不足もとい人造人間不足は間違いない事実であった。シャーロット大統領はその為に、人造人間の生産体制についても尋ねた。
国防大臣はその件について説明を始めたが、生産体制自体は問題無いが現状では生産する端からロシア戦線侵攻に投入され、備蓄出来ていない事を伝えた。しかも先に述べた通り兵力不足は戦争遂行能力に深刻な影響を与え、亜細亜条約機構軍が持久戦を行っている事が最大の消耗理由となっているのである。資源に関しては全てが国内での供給となり地中海もかつてのローマ帝国以来の内海状態となり、地上ルート地中海ルート共に一切の妨害なく輸送する事が出来ていた。だがルートは問題無くても生産する端から消耗していれば意味がない為に、国防大臣はここでもロシア戦線への侵攻を考え直す事を提案した。
そうなるともはや事態打開は避けられないとして、シャーロット大統領は他の閣僚の意見も聞いたが全員がロシア戦線への侵攻を中断するべきだと進言したのである。これを受けてシャーロット大統領は方針撤回を決断し、ロシア戦線への侵攻を中断する事を決定したのである。