危機感
2049年1月20日。ヨーロッパ合衆国はロシア戦線への侵攻を開始したが、その進捗の悪さに苛立っていた。ヨーロッパ合衆国軍としては善戦していたが、やはり無茶な戦闘行為という事もあり難儀していたのである。
『そもそもの発端は大日本帝国陸軍からの斥候を捕捉した事から始まった。斥候の派遣はヨーロッパ合衆国も行っており、お互いが相手の状況を探る手段として採用しており、時代が進んで宇宙に何十億円と打ち上げたとしても最後は直接目で確認した情報がものをいう状況であった。その為に数多くの斥候がヨーロッパ合衆国軍と大日本帝国軍双方から放たれていたが、今回は大日本帝国陸軍の斥候とヨーロッパ合衆国陸軍の絵に描いたような遭遇戦になったのである。
大日本帝国陸軍の斥候も基本に忠実に敵との接触を避ける潜入を行っていたが、ヨーロッパ合衆国陸軍はたまたまその潜入した大日本帝国陸軍の斥候と鉢合わせたのである。まさに偶然の産物であり、大日本帝国陸軍の斥候は待ち伏せされたと勘違いする程であった。その結果ヨーロッパ合衆国陸軍は大日本帝国陸軍の斥候をほぼ全滅させる事に成功したが、1名の逃走を許してしまった。何とか情報を持ち帰らせる訳にはいかないとして、追撃戦を行ったがその結果大日本帝国陸軍が構築した地雷原に追い込む事に成功したのである。そこに追い込むと流石に諦めるだろうという判断であったが、驚くべき事にその兵士は地雷原へと駆け込んだのだ。
呆気にとられたヨーロッパ合衆国陸軍の兵士達であったが、最初は自棄になっての自殺的逃走かと思い静観していたがそうでは無く、しっかりと地雷の位置を把握しての逃走だと気付いたのである。そして慌てて攻撃を行ったがたまたまであろうか、逃げ込んだ先には私が総司令官と一緒に視察に訪れていたのである。その為にヨーロッパ合衆国陸軍としては予想外の反撃を受ける事になった。
まさかこのような事になるとは思っていなかったヨーロッパ合衆国陸軍現地部隊は司令部に増援の派遣を要請した。その要請を受けて司令部は増援を派遣すると共に、国防省に報告を行った。報告を受けた国防省は当初の方針としては戦闘を必要以上に拡大させずに、局地戦の範囲で終息させる事にしていた。その方針と共に戦闘の経緯を報告する為に大統領官邸に訪れた国防大臣は、全てを語った。
それを聞いたシャーロット大統領はその方針に断固として反対し、ロシア戦線全てに於いて全面攻勢に出る事を命令した。予想外の命令に国防大臣は反対したがシャーロット大統領は、大日本帝国以下亜細亜条約機構が徴兵制を復活させ予備兵力の確保に動き出した以上は時間を与えては敵が強大になるだけだと、力強く断言した。
その意見は一理あるとして納得した国防大臣であるが、自分達の人造人間生産も追い付いていない事も事実である為に、全面攻勢には躊躇いがあった。だがシャーロット大統領は攻撃するなら今が絶好の機会だとして、改めて全面攻勢を命令したのである。
そうなるともはや国防大臣としても従うしか無いとして、全面攻勢を軍に対して命令した。その為にロシア戦線に於いてヨーロッパ合衆国陸軍は全面攻勢を仕掛け、ヨーロッパ合衆国空軍も全面的に支援する事になった。だが大日本帝国陸軍は空軍と協力して万全の迎撃体制を整え、持久戦の構えを見せた為にヨーロッパ合衆国陸軍の攻撃は決定打に欠けるものになった。
攻守共に予備兵力が不足しているという異常な戦争に於ける、異質な戦線での戦いは守りに徹し火力で相手を圧倒する大日本帝国陸軍が優位であった。ヨーロッパ合衆国陸軍は攻勢にある為に本来なら主導権を握る筈が、予備兵力の不足により損害を抑えたいという本音が作戦に影響して無闇矢鱈と行動が出来なかった。
その結果がロシア戦線全体で全面攻勢に出ておきながら、進捗の悪さに繋がったのである。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋