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新世紀最終戦争  作者: 007
第6章 猛る炎
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揺れ動く水面

大日本帝国を筆頭に亜細亜条約機構加盟国の貿易は当然ながら海運が主であった。その為に毎日大量の船舶が行き交っていた。しかも日本海・太平洋・東シナ海・南シナ海・インド洋は聖域と呼ばれる程に安定していた。それを受けて海路は一大物流網として機能していたのである。日々タンカーやコンテナ船・自動車運搬船等大量の船舶が行き交い、各国の港を出入りしていた。

その為に各国にとってシーレーン防衛はそのまま亜細亜条約機構の安全保障に直結しており、海軍は海防艦や哨戒艦を建造し沿岸警備隊の増強を行っていた。亜細亜条約機構という一帯的な集団安全保障体制にある為に、各国の連携は高いレベルで維持されていた。大日本帝国は沿岸警備隊では無く海上保安庁と呼ばれる組織であったが、規模は亜細亜条約機構最大規模であった。

何せ西太平洋を覆い尽くす範囲での海洋面積を誇るからである。ティルトジェットを搭載可能な船舶も保有しており、巡視船も他国に比べて二回りは大きかった。その為に大日本帝国海上保安庁の規模と権威は相応に高いものであった。

更に大日本帝国海上保安庁は2017年より、各国沿岸警備隊の長官による多国間協議として『世界海上保安機関長官級会合』を開催し、平時からの連携を強化する事も行っていた。

海上保安庁もしくは沿岸警備隊は数多くの任務を有していた。その中で最大の任務は、『海上の安全の確保』であった。海上の人命および資産を保護し、海上での円滑・安全な経済活動を確保する任務であり、海上における事故・災害の防止および対応、海上交通の管理、水路の調査・保全、海上における捜索救難等が含まれている。海上経済活動の活発化や船舶の大型化、大規模災害の発生危険性により、沿岸国においてはこの任務の重要性は非常に高い。

海上におけるこの任務の実施にあたっては、船艇・航空機といった実働勢力に加えて、安全に関する情報の提供や遭難情報の取り扱いのための通信施設が不可欠である。かつてはこれらの任務は海軍が実施する国が多かったが、沿岸警備隊を立ち上げた国ではこちらが所掌するようになっている。陸上の場合は、消防・救急業務を行う消防機関は法執行機関と分業されているのに対し、海上においては、救難・災害対応と海上法執行とはほぼ同種の船艇・航空機で対応可能であることから、多くの国では効率の観点からこれらの任務が分化せず、沿岸警備隊において一体的に対応するように発展してきているのである。

次は『海上の治安の確保』であった。

海洋は輸送や漁業、レジャーなど様々な活動の場であり、また沿岸国にとっては国境ともなることから、その治安の確保が不可欠となっといる。かつては、条約上の執行権行使の主体は軍艦が担ってきたが、沿岸警備隊の整備が進むにつれて、こちらが運用する船舶(公船)に重点が移ってきている。例えば1958年に署名された公海に関する条約では、条文によって、権限行使の主体として軍艦と公船の両方を規定している場合と軍艦のみを規定している場合とがあったが、1982年に署名された国連海洋法条約では、軍艦とは別に公船も権限行使の主体として明記されていた。

そして『公共の安全と秩序の維持』も重要な任務であり、海上における犯罪の予防・鎮圧、犯罪の捜査、被疑者の逮捕、法令の励行、その他の公共の安全の秩序の維持といった海上における法執行業務は、陸上と同様、沿岸国にとって不可欠な任務であった。一方土地である領土と異なり、領海においては外国船舶の無害通航が認められていることから、領海内に進入した外国船舶が無害とみなされない活動を行っていないかを確認し、必要な措置を執ることも海上領域では必要となるのである。

内陸国と違い沿岸国である国が沿岸警備隊を保有している事から『国境の管理』も重要であった。亜細亜条約機構は基本的には集団安全保障体制である為に、国境の行き来には厳格な審査が必要であった。その為に『国境不可侵の原則』は完璧に保障されたのである。そして国境の管理に関連した税関や出入国管理、検疫、薬物規制といった任務は、海上においても不可欠となっていたのである。通常これら国境の管理に関連する任務については、地上においてそれらの任務を担当する諸機関が海上でも引き続き担当することが多いが、これらの機関が保有する船舶は小型のものが多いことから、より大型の船舶を保有する沿岸警備隊が関与する事になっていた。

そして次が『領域の警備』である。沿岸国にとって、領域の外縁である国境の管理だけでなく、領域そのものの警備・保全は常態的に不可欠な任務であった。上記の外国船舶による無害通航の確認も、自国領域に関する主張の対外的抵抗力を維持するという側面もある。とりわけ、侵害船舶が軍艦や公船である場合には、国際法上、これらの船舶に対する立入検査や拿捕といった措置は実施し得ないが、その侵害行為は侵害船舶の旗国の意思を体現したものにもなり得ることから、現場における国家としての意思表示や対応は、外交的対応とともに、領域の保全において極めて重要となっている。またこのような場合に、軍艦同士の対峙となると緊張が高まることから、沿岸警備隊の船艇で対応することが緊張の拡大防止に資するとの認識も広まっている。

そして『海洋権益の保全』である。国連海洋法条約により、沿岸国は排他的経済水域(EEZ)および大陸棚において、生物・非生物の天然資源の探査・開発等に関する主権的権利を有する事になった。水産資源に対する密漁は古くから問題になってきたが、海底資源についても、違法な探査・開発などの活動の監視・防止が重要になっているのである。

最後が『海洋環境の保護』であった。国連海洋法条約により、沿岸国はEEZ内において海洋環境の保護および保全に関する管轄権を有し、外国船舶による海洋汚染に対して、関連する国際的な規則に従って、所要の防止・規制などの措置をとることが可能になった。本来、これらの業務は各国の環境当局の業務ではあるが、海洋汚染の監視・確認、取締や防除といった業務には船艇・航空機等の実働勢力が不可欠であることから、沿岸警備隊の主要業務の一つとなっているのである。

そしてそんな世界でも屈指の実力と規模を誇る大日本帝国海上保安庁にとっては、大騒動になる事態が勃発した。2048年12月5日午後10時42分。大日本帝国南洋府トラック諸島西285キロ海域にて、『帝国商船』所有の大型コンテナ船『旭日』が消息を絶ったのである。

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