叶総理記者会見
大日本帝国本土空襲は無事に阻止する事が出来た。ステルス戦略爆撃機アスガルド隊の全滅は即座に報告されたが、首相官邸地下の危機管理センターでは叶総理が冷静に命令を下した。
敵の数が分からない以上再び気象衛星[ひまわり]を用いて徹底的に捜索するように、叶総理は先の新世紀日米戦争に於ける釧路への核攻撃を思い出していたのである。
新世紀日米戦争でもアメリカ合衆国が大日本帝国本土空襲を企て、B-1・B-2・B-52を投入して来た。大日本帝国は総力を挙げて迎撃を行ったが、B-2を1機逃してしまったのである。即座に周辺捜索を行ったが、防空レーダーが捕捉しスクランブルした時には釧路上空にB-2は侵入していた。そしてB-2は威力可変型の水素爆弾で100キロトンに設定されていたB83核爆弾を16発投下。大日本帝国は3度めの核攻撃を受け、そして人類史上初の水素爆弾が実戦投入された瞬間でもあった。この悲劇を繰り返さない為にも、叶総理は徹底的な捜索を命じたのである。
そして数時間に及ぶ気象衛星[ひまわり]の捜索の結果、気象庁は自然現象以外の大気の異常な流れは確認されないと報告。それを受けて叶総理は2048年12月1日午後3時19分に、作戦の終了を命じたのであった。
『大日本帝国本土空襲はこうして、ヨーロッパ合衆国の失敗に終わったのである。光学迷彩という最新兵器を投入したが、大日本帝国の方が一枚上手であった。大陸間弾道ミサイルエクスカリバーとステルス戦略爆撃機アスガルドによる攻撃は、大日本帝国を混乱の渦に叩き落とそうとするヨーロッパ合衆国の目的から実行されたが、結果は大陸間弾道ミサイルエクスカリバーとステルス戦略爆撃機アスガルドの大量喪失に終わった。
戦後私は旧ヨーロッパ合衆国空軍関係者を取材する機会を得たが、その時に語ったのは気象衛星まで動員した大日本帝国の徹底的な対応力の高さであった。その関係者が語るには空軍内でも視覚的光学的に捕捉不可能であるが、マッハで飛行する物体の気流までは隠せない事に一抹の不安があったようである。
だがそれを探知するのは不可能に近く、いくら大日本帝国といえども対応出来ないという結論に至り、ステルス戦略爆撃機アスガルド単独による長距離爆撃が実行に移された。そしてそれは途中までは上手くいった。北極圏を飛行中に一部の機体で光学迷彩が故障するトラブルに見舞われ、ベーリング海峡を飛行中にロシア連邦とアメリカ西岸連邦の防空レーダーに探知されたが、何とか修理を行い光学迷彩を再起動させる事に成功していた。
技術者の説明では、光学迷彩が機能していれば視覚的光学的に探知不可能、そのような能力があるとの事だった。そしてそれは見事に証明されロシア連邦空軍のステルス戦闘攻撃機MiG-52と、アメリカ西岸連邦空軍のステルス戦闘攻撃機F-29がスクランブルして来たが探知される事無く振り切ったのであった。
これを受けてヨーロッパ合衆国空軍ステルス戦略爆撃機アスガルド隊の隊長は、大日本帝国本土空襲の成功を確信したのである。そしてそれはヨーロッパ合衆国本土にも連絡され、シャーロット大統領も成功を確信した。だが大日本帝国がまさかの気象衛星を捜索に動員した結果、ステルス戦略爆撃機アスガルド隊は一方的に撃墜される事になった。悲鳴にも似た通信がヨーロッパ合衆国に届いたが、どうする事も出来なかった。
そして最後の1機から連絡が途絶えると、あまりの結果にヨーロッパ合衆国は大騒ぎになったのである。そうかつての関係者は語ってくれた。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋
大日本帝国本土空襲阻止の成功を受けて、叶総理は午後6時に国民への説明として記者会見を開いた。
『大日本帝国国民の皆様、こんばんは。内閣総理大臣の叶真理亜です。今回の記者会見は皆様に報告があり行わせて頂きました。
本日我が大日本帝国はヨーロッパ合衆国による本土空襲危機にありました。大陸間弾道ミサイルエクスカリバーとステルス戦略爆撃機アスガルドを用いた長距離攻撃であります。40式都市防衛用レーザー砲が起動し砲撃を行った為に、何かあったのではないかと思われた皆様もおられるでしょう。SNS上では起動から砲撃までの動画が数多く投稿されていました。
40式都市防衛用レーザー砲は大日本帝国本土に降り注ごうとしていた大陸間弾道ミサイルエクスカリバーを、終末段階で大気圏上で迎撃していたのです。そしてその後はヨーロッパ合衆国空軍のステルス戦略爆撃機アスガルドが空襲を行おうとしましたが、空軍の45式ステルス戦闘攻撃機閃光と47式ステルス掃射機飛鳥改により全機撃墜を致しました。
国民の皆様におかれましては本土への攻撃を、未然ながら許した事への批判があるかもしれません。それはひとえに私の責任でございます。ですがこのような事は今後も起こるかもしれません。第三次世界大戦に於いて対ヨーロッパ合衆国大同盟の盟主である我が大日本帝国を攻撃するのが、ヨーロッパ合衆国にとっては戦略的にも意味があるからです。
もちろん私は大日本帝国軍最高指揮官として徹底的に本土空襲を阻止する事をお約束します。国民の皆様は是非とも不安を抱かずに日々の生活を行って頂きますようにお願い致します。そして現在議論されております選抜徴兵制が成立された時には、ご協力頂きますように重ねてお願い致します。本日はありがとうございました。』