探知方法模索
大日本帝国は再びの本土空襲の危機であった。ヨーロッパ合衆国空軍のステルス戦略爆撃機アスガルドが全く探知出来なかったのである。その為に国防大臣の意見から、ステルス戦略爆撃機アスガルドが光学迷彩を装備している前提で再度捜索する事になった。だがバイスタティックレーダーやパッシブレーダー・低周波数レーダー等を用いても探知出来ない事から、レーダー波全てを遮断するという事を成し遂げており、更にロシア連邦空軍のステルス戦闘攻撃機MiG-52と、アメリカ西岸連邦空軍のステルス戦闘攻撃機F-29がスクランブルしても探知出来なかった事から、視覚的にも見えていないという事であった。
叶総理は飛行機雲を探してみてはどうかと提案したが、それは国防大臣が即座に否定した。かつてアメリカ合衆国がステルス戦略爆撃機B-2に於いて、薬剤を利用して飛行機雲を発生させない装置を搭載しており、それは47式ステルス戦略爆撃機飛鳥と47式ステルス掃射機飛鳥改にも標準装備として搭載されており、ステルス戦略爆撃機アスガルドも標準装備だと思われる為であった。
それならと叶総理は気流探知を行えば良いのではないか、と提案した。何かしらの物体がマッハで飛行しているのだから、大気は切り裂かれるというか何かしらの動き流れが生まれる筈である。というのが叶総理の提案理由であった。
それを聞いた国防大臣もそれは最もな理由だとして、国土交通大臣に外局の気象庁に対して気象衛星を総動員してベーリング海周辺の、異常気流について探知してもらうように要請した。国土交通大臣は即座に行動に移り、気象庁に対して気象衛星の探知を命令した。
叶総理は何故偵察衛星では無くて、気象衛星なのか国防大臣に尋ねた。国防大臣は苦笑いしながら、偵察衛星は気流の探知まで想定していませんでした、と答えたのである。
『こうして気象庁の気象衛星を用いたステルス戦略爆撃機アスガルドの捜索が行われる事になったのである。大日本帝国国土交通省外局の気象庁が保有する気象衛星は[ひまわり]と命名されており、新世紀最終戦争当時は[ひまわり21・22・23・24号]の4つが打ち上げられて運用されていた。大日本帝国のみならず亜細亜条約機構加盟国にも気象情報を送る、高性能気象衛星であった。その気象衛星をステルス戦略爆撃機アスガルドの探索に利用する事になったのである。
気象庁はまさかの命令に驚いた。大日本帝国の安全保障上最優先目標として、[ひまわり]を利用してステルス戦略爆撃機アスガルドの気流探知を行え、そのような命令だったのである。しかも国土交通大臣、国防大臣、叶総理と上の人間にも程がある人物からの命令だった。
気象庁の担当者は驚いたが、命令は即座に実行された。気象衛星[ひまわり]を利用しての大気の乱れについて、ベーリング海周辺を重点的に捜索する事になった。捜索当初は季節性の気流しか探知出来ず、時間だけが過ぎていった。
やはり無理かと諦めかけたが、遂に異常な大気の乱れを探知したのである。それは即座に気象庁の量子コンピューターで解析され、自然現象では無いと断定された。そしてその大気の乱れは一直線に続いており、予想進路線には帝都が位置していたのである。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋
気象庁から連絡を受け、首相官邸地下の危機管理センターは慌ただしくなった。気象衛星を利用した捜索で遂にヨーロッパ合衆国空軍のステルス戦略爆撃機アスガルドを捕捉したのである。だが最悪な事にその編隊は一直線に帝都を目指していたのだ。
叶総理は国防大臣に対して直ぐに迎撃するように命令した。国防大臣は空軍に対して迎撃を命令し、45式ステルス戦闘攻撃機閃光が大挙して離陸した。だがここで国土交通大臣が、レーダーで探知出来ない機体にミサイルがロックオン出来るのか、そう疑問を口にしたのである。
それは当然と言える疑問であったが、誰もが気付いていなかった盲点であった。そうなのだ。このままでは45式ステルス戦闘攻撃機閃光は6式空対空ミサイルをロックオン出来なかった。こうなると残された手段はただ一つであった。20ミリレーザーガトリングガンで攻撃するしか無かった。そこで叶総理は47式ステルス掃射機飛鳥改も出撃させてはどうかと、国防大臣に尋ねた。
47式ステルス掃射機飛鳥改なら20ミリレーザーガトリングガンを88門もウェポンベイに装備している為に、今回の任務には最適であった。それを受けて国防大臣は47式ステルス掃射機飛鳥改の出撃も命令した。
気象庁からの気象衛星情報はリアルタイムで届いており、敵は探知されているとは微塵も感じていない様子だった。この分なら45式ステルス戦闘攻撃機閃光と47式ステルス掃射機の接敵は支障無く行える筈であった。