大陸間弾道ミサイル迎撃
大日本帝国が迎撃体制を完璧に整えたが、その間もヨーロッパ合衆国の発射した大陸間弾道ミサイルは飛翔を続けていた。ヨーロッパ合衆国の発射した大陸間弾道ミサイルは240基に及び、その全てが今のところは正常に機能していた。ヨーロッパ合衆国の大陸間弾道ミサイルは『エクスカリバー』と呼ばれ、ヨーロッパ合衆国成立後の核戦略見直しの際に開発が決定された。全長28.53メートル、直径2.94メートル、4段式の大陸間弾道ミサイルであった。
大日本帝国の保有する『46式島嶼防衛弾道ミサイル』と『44式島嶼防衛弾道ミサイル』は用途が用途だけに、通常弾頭型しか存在しなかった。大日本帝国の核戦略は海軍の潜水艦発射弾道ミサイルと、空軍の戦略爆撃機での運用であった。大日本帝国が核弾頭搭載の弾道ミサイルを保有しなかったのは、その国土に起因した。大日本帝国の国土である弧状列島では人口密度が非常に高く、単純にミサイルサイロを建設する場所が無かったのである。都市部は当然ながら地方でさえも人口密度は高く、更には大東亜戦争敗戦後の食糧安全保障の観点から地方は農地も広大であった。
そんな中でミサイルサイロのような物を建設する土地は無かった。空軍と陸軍基地は必要であり建設され、海軍基地は海に面していた。それにそもそも論として冷戦時の相互確証破壊理論により、大陸間弾道ミサイルのサイロは標的にされる可能性も高かった。その為に空軍の戦略爆撃機を運用する基地も択捉島や硫黄島等に建設され、人口希薄地に建設されていた。
以上の観点から大日本帝国は大陸間弾道ミサイルを保有しなかったのである。『46式島嶼防衛弾道ミサイル』と『44式島嶼防衛弾道ミサイル』も車輌搭載型で、ミサイルサイロでは無かった。だがヨーロッパ合衆国は国土が広く人口希薄地もある為に、そのような土地にミサイルサイロは建設されていた。そのミサイルサイロから大陸間弾道ミサイル『エクスカリバー』は発射されたのである。
『大日本帝国によるヨーロッパ合衆国の大陸間弾道ミサイル迎撃作戦は、空軍の45式ステルス戦闘攻撃機閃光による攻撃から始まった。首相官邸地下の危機管理センターでは叶総理が無制限攻撃を許可しており、あらゆる手段を使って大陸間弾道ミサイルを迎撃するように命令していた。
海軍連合艦隊機動打撃群がインドに存在している為に、迎撃の一番槍は空軍が務める事になった。45式ステルス戦闘攻撃機閃光は大陸間弾道ミサイル迎撃の為に、大挙離陸していた。45式ステルス戦闘攻撃機閃光は6式空対空ミサイルをウェポンベイに装備していた。6式空対空ミサイルは大日本帝国の開発した最新の空対空ミサイルである。2年前の2046年に採用されたばかりで、誘導方式は初期から終末誘導に至るまでミサイルに内蔵されたレーダーによるアクティブ・レーダー・ホーミングが用いられる。射程は280キロあり、マッハ15の速度を叩き出す。
大日本帝国の空対空ミサイルの伝統としては指向性破片弾頭の装備があげられる。この方式では、近接信管が内蔵レーダーにより敵機の方向を正確に把握し集中的に攻撃を仕掛けるので、ただ破片をばら撒くだけであった従来の近接信管と比べるとより効率的に大きな攻撃力を与えることが可能である。世界各国の空軍が対航空機戦に主眼を置く為に、近接信管で弾頭を炸裂させればよいのに対し、大日本帝国空軍が求める空対空ミサイルの能力では対艦ミサイルや対地巡航ミサイル・弾道ミサイルの迎撃も重要視しているのである。その為に離陸した45式ステルス戦闘攻撃機閃光はヨーロッパ合衆国の大陸間弾道ミサイルエクスカリバーを捕捉すると、次々と6式空対空ミサイルを発射した。
マッハ30で飛来するヨーロッパ合衆国の大陸間弾道ミサイルエクスカリバーに対して、6式空対空ミサイルはマッハ15で立ち向かった。相対速度はマッハ45に達するが6式空対空ミサイルはレーダーでエクスカリバーを捕捉していた。危機管理センターで見守る叶総理以下首脳陣の期待に6式空対空ミサイルは見事に応え、大陸間弾道ミサイルエクスカリバーを捕捉しその鼻先で指向性破片弾頭を炸裂させた。
6式空対空ミサイルは期待通りの性能を遺憾なく発揮し、大陸間弾道ミサイルエクスカリバーを撃墜した。だが速度的に80基は撃ち漏らし、迎撃数は160基であった。しかし迎撃率は70%に迫るものであったのである。空軍の活躍に陸軍も気合いを入れ、まずは40式都市防衛用レーザー砲が迎撃を開始した。最大出力で発射されたレーザー砲は見事に大陸間弾道ミサイルエクスカリバーを粉砕した。降り注ぐ破片は47式自走レーザー砲が迎撃を行い、2次被害を防いでいた。
その為に6式空対空ミサイルを潜り抜けた大陸間弾道ミサイルエクスカリバー80基も、終末段階で40式都市防衛用レーザー砲に全弾迎撃される事になったのである。首相官邸地下の危機管理センターでは大陸間弾道ミサイルエクスカリバー示す、赤い輝点が大型モニターから全て消えると歓声が上がっていた。
叶総理も安堵の表情を浮かべていたが、これで危機は去ったのか疑問でもあった。そしてその疑問は最悪の結果として現れたのであった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋