新たな動き
アラビア海海戦の大敗北は、ヨーロッパ合衆国シャーロット大統領を激怒させていた。ドイツ州ミュンヘンの大統領官邸で開かれた対策会議では、国防大臣がシャーロット大統領に追及されていた。その怒りは大きいものであった。海戦前に国防大臣は自信満々に大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群に勝ちます、そう断言していた。だが現実は完膚無きまでに叩きのめされた。
大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群には一切被害を与えられずに、ヨーロッパ合衆国海軍機動部隊は全滅したのである。正確には攻撃型原子力潜水艦10隻がイラン戦線支援を行っている、亜細亜条約機構海軍を壊滅状態にさせたがその攻撃型原子力潜水艦も半数が撃沈され生き残りは這々の体で地中海に逃げ込んだ。
確かに亜細亜条約機構海軍を壊滅状態にさせる事に成功し、大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群もVLSを撃ち尽くした為にインドに撤収させる事に成功したのは事実である。
これは戦略的にはイラン戦線への圧力を軽減させるという事では意味はあるといえた。だが海軍機動部隊が半減したのは大打撃であった。これによりシャーロット大統領は直々に命令を下し、海軍機動部隊の遠征は禁止した。それは大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群に完敗したのも理由であった。
もはや大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群に勝てる術は無い、そう判断したのである。何とかして戦うにはもはや海軍機動部隊は本土沿岸に展開し、陸軍と空軍との連携作戦を実行する事に決めた。その為に南北アメリカ大陸諸国が陸軍を派遣するという事態も招いてしまった。
しかも海軍が撤収したイラン戦線では代わりに空軍による大規模な空襲が行われ、現地に展開する空軍は航空撃滅戦に巻きこまれてしまったのである。
たじたじになりながら答える国防大臣であったが、シャーロット大統領は何とか説明を聞いていた。問題は山積していたのである。雪により自然休戦となったロシア戦線、航空撃滅戦となったイラン戦線、南北アメリカ大陸諸国の陸軍派遣、イラン戦線への陸軍増援、対策は急務であった。
シャーロット大統領は国防大臣に、今後の作戦について尋ねた。尋ねられた国防大臣は何とか気を取り直して説明を始めた。国防大臣は優先順位が高いのは、イラン戦線だと断言した。
ロシア戦線は雪という自然現象には人類は勝てない為に、ある程度時間がかかるのは仕方無かった。その為にイラン戦線をどうにかして突破する必要があったのである。イランを突破するとトルクメニスタン・ウズベキスタン・カザフスタンという弱小国を蹂躪し、ロシア連邦の下腹部を喰い破るのがイラン侵攻の目的であった。
イラン戦線に対する大日本帝国と亜細亜条約機構海軍の支援攻撃で、陸軍は被害を受け戦線は膠着状態になっていたが海軍の死にものぐるいの活躍で、亜細亜条約機構海軍は撤収していた。これを最大限に利用する、そう国防大臣は語ったのである。
ヨーロッパ合衆国本土では陸軍の予備役招集と人造人間の大量生産を行っており、イラン戦線への増援派遣は1週間以内に出来る事が可能となっていた。空軍部隊はこれまでの戦いで被害は少なかった為に、イラン戦線での航空撃滅戦は問題なく実行出来る、そう国防大臣は言い切ったのである。
現状は膠着状態であるが、何とかなりそうな気配ではあった。だがシャーロット大統領に、内務大臣が懸念事項があると口を開いたのである。それは気になる事である為に、シャーロット大統領は発言を促した。
内務大臣は国内の治安対策を担当する警察を所管している。その為に併合した中東・アフリカの治安対策も行っていたのである。
その内務大臣が懸念事項であるというのなら、やはり治安についてであった。
先日から中東・アフリカ地域での破壊工作が頻繁に行われている、との事であった。当初は事故かと思われていた事象も、詳しく調査すると故意な出来事だと分かったのである。内務大臣の言葉にヨーロッパ中央情報局(ECIA:EuropeanCentralIntelligenceAgency)長官も同意見であった。
併合地域のレジスタンス運動が活発化している傾向があると、各地に潜伏させた諜報員が報告していると語った。その諜報員が報告するに所詮は粗製濫造と思われていたレジスタンス組織が、急に組織として確立され実態も掴みにくくなっていると報告が上がってきたと語った。
これは由々しき事態であった。しかもECIA長官は先月の中東・アフリカ地域への大日本帝国による弾道ミサイル攻撃が、レジスタンス組織への支援攻撃だったのでは無いかとも付け加えた。中東・アフリカ地域でのレジスタンス運動が活発化すれば、それだけ治安維持への対応が急務になってしまう。
放置し続けるの今後の戦略に影響を与えるだろう。シャーロット大統領は、ある程度の強硬手段は致し方無いとして内務大臣とECIA長官に治安維持対策を協議するように命令したのであった。