海戦終結
大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群とヨーロッパ合衆国海軍機動部隊の海戦の間、亜細亜条約機構海軍はイラン戦線への支援攻撃を行っていた。ロシア連邦海軍太平洋艦隊・中華連邦海軍・アメリカ西岸連邦海軍・インド海軍・タイ海軍・大韓民国海軍の派遣した海軍であった。
ヨーロッパ合衆国海軍に対峙出来るのは大日本帝国海軍連合艦隊だけ、との判断から海戦には連合艦隊だけが向かう事になった。残された亜細亜条約機構海軍はただひたすらにイラン戦線への支援攻撃を行っていたのである。
亜細亜条約機構海軍としての司令官は、大日本帝国海軍連合艦隊大和機動打撃群の司令官が務めていた。だがヨーロッパ合衆国海軍に向かう事になった為に、当初の規定通りロシア連邦海軍太平洋艦隊の司令官に一時的に権限移譲を行っていた。その為に亜細亜条約機構海軍としてデータリンクを行っていたが、一時的に大日本帝国海軍連合艦隊がデータリンクから外れる事になったのである。
これはヨーロッパ合衆国海軍と戦う事に集中する為に、各国の国防省が話し合い決定した事であった。イラン戦線への支援攻撃とヨーロッパ合衆国海軍との海戦では、そのデータリンクの必要性が低いと言うのが理由であった。各国海軍の現場部隊は国防省の決定に反対したが、それは覆る事は無かった。
だがそれが今回の悲劇を招いたのである。
大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群がヨーロッパ合衆国海軍機動部隊と海戦を繰り広げている間、亜細亜条約機構海軍はイラン戦線への支援攻撃を順調に行っていた。特に問題も無く、作戦は進行していた。大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群が分離した現状では、ロシア連邦海軍太平洋艦隊が亜細亜条約機構海軍の主力を成していた。ロシア連邦海軍太平洋艦隊は、ロシア連邦海軍北方艦隊と並ぶロシア連邦海軍の主力艦隊であった。
バルト海艦隊と黒海艦隊は哨戒艦等しか配備されておらず完全なる沿岸防衛用であったが、太平洋艦隊と北方艦隊はイージス原子力戦艦とイージス原子力空母が配備される外洋遠征艦隊だった。ロシア連邦海軍の保有する10個機動打撃群は、太平洋艦隊と北方艦隊に等分に配備されており特に太平洋艦隊は大日本帝国海軍連合艦隊との共同作戦が前提の運用でもあった。
そんな前提であったが亜細亜条約機構海軍を構成する兵力では、大日本帝国海軍に次ぐ規模にある為に、ヨーロッパ合衆国海軍との海戦に大日本帝国海軍が分離すると権限移譲が行われた。
そしてロシア連邦海軍太平洋艦隊司令官は一時的に、亜細亜条約機構海軍17個機動打撃群を指揮する事になったのである。残された亜細亜条約機構海軍だけでも、これだけの規模を誇っていた。並の国なら楽々とあしらえる程であったのである。
だが唯一の懸念事項は大日本帝国海軍連合艦隊とのデータリンクが外れていた事であった。そこが残された各国海軍にとって、不安感を増す事態になっていたのである。だが取り敢えずの目的はイラン戦線への支援攻撃であった。
それを実行する為に亜細亜条約機構海軍は分離するという作戦を行ったのである。残された部隊としては、責務を果たすべきであった。そして順調に巡航ミサイルと超電磁砲による砲撃を行っていたが、アメリカ西岸連邦海軍司令官より対潜哨戒の実施が意見具申された。
いくら大日本帝国海軍連合艦隊といえども、ヨーロッパ合衆国海軍機動部隊の水上艦による攻防で、連合艦隊の対潜哨戒網をヨーロッパ合衆国海軍の原子力潜水艦が突破する可能性がある、とアメリカ西岸連邦海軍司令官は危惧したのである。
その意見は的確であるとしてロシア連邦海軍司令官は全機動打撃群に、対潜哨戒活動の実施を命令したのである。大日本帝国海軍連合艦隊に頼り過ぎるのは、職務怠慢であるとの判断であった。
そしてその同じタイミングで、大日本帝国海軍連合艦隊からも対潜警戒を行うように連絡が入った。だがそれは遅きに失するものであった。
ロシア連邦海軍太平洋艦隊旗艦イージス原子力戦艦エカテリーナの右舷に、魚雷が2発命中したのである。そしてそれはヨーロッパ合衆国海軍機動部隊の攻撃型原子力潜水艦アルプス級による雷撃の、始まりでもあった。
『私は短時間の間に、こうも驚く事が連続するのかと、やや混乱していた。偵察衛星からの映像がCICの大型モニターに映されていたが、爆発して沈みゆく艦艇や傾斜している艦艇、黒煙を吹き上げている艦艇等等悲惨な光景が広がっていた。あまりにも凄惨な光景にあれ程歓声に湧いていたCICは、沈黙に包まれていた。「被害状況は?」そんな中でも司令官は冷静に状況の把握に務めていた。
その言葉に各員が情報の確認と整理を行い、艦長が口を開いた。「合同編成を行っていたタイ海軍と大韓民国海軍の機動打撃群が全滅した模様です。その他各国の機動打撃群も、魚雷命中により大破した艦艇が続出しています。
タイ海軍と大韓民国海軍の機動打撃群が一番外周にいた為に、被害が集中したものと判断されます。その為に他の各国機動打撃群は、大破した艦艇は多いものの沈没した艦艇はいません。」そう語ると艦長は黙った。
アラビア海に展開するヨーロッパ合衆国海軍機動部隊の、水上艦艇は全滅させたが所在不明だった攻撃型原子力潜水艦により亜細亜条約機構海軍は大打撃を被ったのである。私はどのような言葉を掛けたらいいか分からず、ただただ呆然とするだけであった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋