ESA再スタート
大泉総理が退任してからヨーロッパ連合は、更に大日本帝国と亜細亜条約機構への対抗を強めていた。ヨーロッパ連合内での経済的繋がりはより強まり、大日本帝国と亜細亜条約機構に対して劣勢な経済規模を何とか挽回しようとしていた。だが各国のメーカーを統合するという話は、どのメーカーに統合するか、どの業種まで統合させるか、という課題が生まれ進捗は悪かった。そんな中で何とか順調に進んだのが宇宙開発であった。
ヨーロッパ連合は欧州宇宙機関(ESA)主導による宇宙開発を行っていた。ESAは1975年5月30日にヨーロッパ各国が共同で設立した、宇宙開発・研究機関である。本部はフランスに置かれ、その活動でもフランス国立宇宙センター (CNES) が重要な役割を果たし、ドイツ・イタリアがそれに次ぐ地位を占めている。主なロケット打ち上げ場所としてフランス領ギアナのギアナ宇宙センターを用いている。ESAはヨーロッパ連合と密接な協力関係を有しているが、欧州連合の専門機関ではない。加盟各国の主権を制限する超国家機関ではなく、加盟国の裁量が大きい政府間機構として形成されたのだ。だがそれでは大日本帝国と亜細亜条約機構に対抗出来ないとの判断により、2007年12月13日にリスボンのジェロニモス修道院において加盟国の代表らによって署名された『ヨーロッパ連合条約及び欧州共同体設立条約を修正するリスボン条約』において、ESAを完全なるヨーロッパ連合の専門機関・下部組織として定義し、ヨーロッパ連合各国の宇宙機関をESAに完全統合させる事にした。そしてリスボン条約は2009年12月1日に発効。これによりESAはIAXAに匹敵する宇宙機関として再スタートしたのである。ESAは2010年に遅れていたヨーロッパ独自のGPS網『ガリレオ』の早急な構築を発表した。予算不足等により衛星打ち上げは遅れていたが、各国宇宙機関のESA統合により計画は加速された。それよりもヨーロッパ連合は危機感を強めていた。IAXAは既に統合前から大日本帝国独自のGPS網を整備し、今や軌道基地まで完成させていた。そしてさらなる飛躍の為に再度足場を固め直すために、トラック宇宙基地という巨大な打ち上げ施設まで建設中であった。
欧州理事会はESAの能力向上の為にフランス領ギアナにあるギアナ宇宙センターに於いて、大幅な拡張工事を行い大日本帝国が建設中のトラック宇宙基地に匹敵する規模に改良すると発表した。その計画によりESAはフランス領ギアナのギアナ宇宙センター周辺の土地を買収し拡張工事を開始。地元住民から反対の声が出たが、ヨーロッパ連合は強権を発動して買収を進めた。2010年はまだ大泉総理が在任中だった為に、大日本帝国は、植民地支配の継続であり植民地帝国主義の発露だと、声高に非難した。それに亜細亜条約機構加盟国も同調し、ヨーロッパ連合の時代錯誤な方針を非難した。非難されたヨーロッパ連合も黙っておらず、大日本帝国のトラック環礁に於ける宇宙基地建設も同じ事だと非難した。だがこれは的外れの非難であった。大日本帝国が建設中のトラック宇宙基地は広大なトラック環礁に浮体構造物方式で建設されており、海洋に与える環境被害もごく僅かでありESAが行おうとしている土地の大量取得とは全く異なるものであった。しかも併合したミクロネシアの地元住民も建設作業に従事しており、雇用もうまれていた。更に地元住民は基地完成後も基地の従業員としての雇用が約束されており、地元経済にとっては最良の選択肢であった。
自らの非難が的外れであると分かったヨーロッパ連合は、もはやなりふり構わずギアナ宇宙センターの拡張を続けた。そして地上での拡張工事である為に、僅か1年後の2011年3月5日には完成した。そしてESAの主力ロケットであるアリアンシリーズ最新の、『アリアン5』を大量に打ち上げ『ガリレオ』を構築するのを急いだ。だがどんなに急いだとしても今更独自のGPS網を構築したとして、既に大日本帝国は独自のGPS網のみならず軌道基地まで完成させていた。だがヨーロッパ連合は慌てなかった。その点は大日本帝国も注意深く見守っていたが、いきなり突拍子もない計画を推進しない事に警戒感を強めた。対抗相手がまともな行動をするというのは、それだけに手強い事の証でもあった。しかもヨーロッパ連合という権謀術数に長けた国々が行うのだから、大日本帝国に対する対抗相手にはある意味でアメリカ合衆国より手強い相手となった。
それは宇宙開発のみならず、軍拡競争に於いても手強い対抗相手となっていた。ヨーロッパ連合は大日本帝国に対抗していく為に、大軍拡をも行い見事にその計画を完遂させていた。それはヨーロッパ連合が史上初めて、統一した目標で大軍拡を行った最初の成果となっていた。それ程までにヨーロッパ連合が成し遂げた大軍拡は凄まじいものであった。