冬将軍出陣
2048年11月1日。遂にロシア連邦の大地に冬将軍が出陣した。発達した低気圧がロシア連邦を覆い尽くし、猛烈な吹雪を起こしていた。前日の夜から降り出した雪は勢いを落とす事無く振り続け、ロシアの大地を白く侵攻していったのである。あまりの豪雪に亜細亜条約機構軍もヨーロッパ合衆国軍も一時的に行動不能となってしまった。両軍共に冬季装備は万全であったが、想像以上の豪雪に体制の立て直しを余儀なくされたのである。
ヨーロッパ合衆国は全ての侵攻計画を一時的に中止した。ヨーロッパ合衆国国防省の計画では、ロシア連邦首都モスクワまで既に占領している筈であった。だがロシア連邦軍の反撃は想像以上に強力であり、予備役招集も素早かった。そして亜細亜条約機構も援軍派遣を迅速に行い、ロシア連邦とイランに素早く展開したのである。
ロシア連邦侵攻に遅れが生じ迂回路としてのイラン侵攻を行ったが、そこでも主に大日本帝国による攻撃を受けて手痛い打撃を被った。そこへ追い討ちをかけるように冬将軍の出陣である。ヨーロッパ合衆国シャーロット大統領としても侵攻計画を一時的に中止するのを承認するしか無かった。
幾ら何でもこの状況で無理に行動するのは、ナポレオンとヒトラーの悲劇を繰り返すだけであった。その為に侵攻計画を一時的に中止し、体制の立て直しを行いモスクワに固執する危険性を回避する事になった。雪が降り積もり大地を覆い尽くすまで待つしか無かった。
現状豪雪ではあるが未だに泥濘状態の大地もあり、そうなると戦車等の装甲車輌には足回りに大きな障害となった。そのような状況で無茶をする訳にはいかなかったのである。
亜細亜条約機構軍も当事国のロシア連邦陸軍の意見により、体制の立て直しを優先する為に全ての計画を一時的に中止した。
『ロシア戦線に於ける突然の休戦状態は、ロシアの偉大なる冬将軍閣下が齎したものであった。大日本帝国陸軍ロシア派遣部隊は聞きしに勝る、ロシアの冬将軍に驚きを隠せずにいた。
それは総司令官も同じであり私に駆け寄ると、「広瀬さん、ロシアの冬は想像以上ですね。ここまでとは思っていませんでした。かつて日露戦争を見据えて冬季訓練を行い、近代の登山史における世界最大の山岳遭難事故である[八甲田雪中行軍遭難事件]の二の舞いは避けたいですね。」と語った。総司令官の目には偉大なる先輩の悲劇を繰り返さないという、強い決意が私には見て取れた。
亜細亜条約機構の行動としては、やはり現地の当事国であるロシア連邦陸軍の意見が大きかった。ロシア連邦の冬を知り尽くしている先輩として、大日本帝国陸軍・中華連邦陸軍・インド陸軍・アメリカ西岸連邦陸軍に無茶をする事無く、体制の立て直しを進言したのである。
大日本帝国・中華連邦・インド・アメリカ西岸連邦と、各国はそれぞれ豪雪地帯を国土に有しておりある程度の経験はあるが、ロシア連邦の冬はまた違った。その為に各国陸軍は無茶をする事無く、ロシア連邦陸軍の進言を受け入れた。そもそもが各国の冬とは違い、ナポレオンとヒトラーを打ち負かしたロシア連邦の冬将軍である。
自分達の冬とはひと味も違うロシア連邦の冬に、対策は急いだ方が賢明であった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋
同時刻。ロシア連邦に冬将軍が出陣した事により、ヨーロッパ合衆国ドイツ州ミュンヘンの大統領官邸では、シャーロット大統領が対策会議を開いていた。シャーロット大統領は国防大臣に、最新の侵攻状況について尋ねた。
尋ねられた国防大臣は緊張しながらやや震えた声で、ロシア戦線とイラン戦線共に停滞していると答えた。理由は明確でロシア戦線は冬将軍に、イラン戦線は大日本帝国海軍連合艦隊率いる亜細亜条約機構海軍が、それぞれ原因であった。
ロシア戦線の冬将軍は自然現象である為に多少は仕方無い点があったが、イラン戦線に於ける海軍の支援攻撃はヨーロッパ合衆国の完全なる失策であった。
世界中に偵察衛星網を構築しておきながら、大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群の出撃に気付くのが遅れたのである。あまりの手際の悪さにシャーロット大統領は国防大臣を罷免した。その為に新しい国防大臣を任命し、まだ馴染んでいない事により緊張していたのである。
シャーロット大統領は地中海に展開していたヨーロッパ合衆国海軍機動部隊のアラビア海進出を命令しており、その動向についても尋ねた。海軍機動部隊はアデン湾に一両日中に到達し、3日以内にはアラビア海に進出出来るはずです、と国防大臣は答えた。
閣僚達はその返答を聞いて、やや緊張感をあらわにした。世界最強の大日本帝国海軍連合艦隊機動打撃群に、遂に勝負を挑む時が来たのであった。この海戦の勝者こそが、世界の海を征する覇者になるのである。緊張感は隠しようが無かった。
シャーロット大統領はそんな閣僚達の緊張感を感じてはいたが、それは指摘しなかった。ただ『ヨーロッパ合衆国海軍の名に恥じない働きを期待します。』そう力強く言い切ったのである。
次回は海戦と見せかけて、1話挟みます。
48式二足歩行戦車鋼龍の纏め解説です。ヨーロッパ合衆国陸軍の人造人間もそうですが、自分の為の備忘録でもあります。
1話に纏めて投稿しておかないと、後でどの話だったか探すのが大変で……