作戦開始
2048年10月12日。レジスタンス組織への後方撹乱作戦の一貫として、島嶼防衛弾道ミサイル攻撃が実行に移された。
『島嶼防衛弾道ミサイルが実戦投入された初めての瞬間であった。射程10000キロを誇る大陸間弾道ミサイルに匹敵する46式島嶼防衛弾道ミサイルは、そのまま大日本帝国本土の各陸軍基地から中東地域に向けて発射された。射程5000キロを誇る中距離弾道ミサイルに匹敵する44式島嶼防衛弾道ミサイルは、大日本帝国空軍の輸送機でイランに空輸されてイランから発射された。
この時大日本帝国政府はイラン政府に事情を説明し、イランに協力を依頼。空軍による空輸と44式島嶼防衛弾道ミサイルの展開と攻撃許可を貰っていた。更にはイランも亜細亜条約機構としての役割を果たすとして、自分達が保有する大陸間弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルを中東アフリカ地域に向けて発射したのであった。
イランの協力もあり中東アフリカ地域には、おびただしい数の弾道ミサイルが降り注ぐ結果となった。特に大日本帝国陸軍の46式・44式島嶼防衛弾道ミサイルは、対地対艦両用の弾道ミサイルであり大日本帝国の技術力の高さを示す半数必中界(CEP)を誇っていた。
イランも自国製の大陸間弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルを撃ち込んだが、半数必中界は大日本帝国に及ぶものでは無かった。イランの弾道ミサイル技術はかつての北朝鮮から輸入した[スカッドミサイル]を基に、国産開発を続けてきた。その成果は中東アフリカ地域への攻撃に発揮されたのであった。
壮絶な弾道ミサイル攻撃を受ける事になったヨーロッパ合衆国は、併合したばかりの中東アフリカ地域に凄まじいまでの被害を受けた。侵攻による自分達の攻撃で破壊したインフラ等を修理中であったが、それらをピンポイントで大日本帝国陸軍の島嶼防衛弾道ミサイルは殺到した。
島嶼防衛弾道ミサイルは最終的にマッハ35にまで到達する極超音速滑空体により、壮絶な破壊力を発揮する。46式・44式島嶼防衛弾道ミサイルは射程によるミサイルの大きさが違うだけで、弾頭自体は共通の[八咫烏極超音速滑空体]を装備している。八咫烏は2トン通常弾頭を搭載可能で、運用上核弾頭は搭載しない。ある意味で贅沢な兵器であるが、核運用は連合艦隊の戦略型原子力潜水艦と空軍の戦略爆撃機のみとしている。
島嶼防衛弾道ミサイルの開発目的が、太平洋地域に於ける島嶼防衛である為に防衛戦術の一貫として運用される為に、核弾頭が装備されないのは当然でもあった。
だが通常弾頭の搭載でありながら、その破壊力は大きかった。イラン軍の発射した大陸間弾道ミサイルと中距離弾道ミサイルは半数必中界が大きい為に、ヨーロッパ合衆国軍の基地を目標にし、多数の命中弾を出しこれまた大きな被害を与えたのであった。』
広瀬直美著
『新世紀最終戦争』より一部抜粋
大日本帝国とイランによる弾道ミサイル攻撃は、ヨーロッパ合衆国に衝撃を与えた。併合したばかりで民心掌握が進んでおらず、寧ろレジスタンス組織による抵抗が頻発していたのである。国家憲兵隊を投入して治安維持活動を行っていたが、その抵抗運動は収まっていなかった。
そこへきての大日本帝国とイランによる弾道ミサイル攻撃である。中東アフリカ地域の住人に自分達は見捨てられていなかった、と認識させるには大きな結果となっていた。
ヨーロッパ合衆国ドイツ州ミュンヘンの大統領官邸では、シャーロット大統領が対策会議を開いていた。ロシア戦線でロシア連邦軍・中華連邦軍・インド軍の反攻を挫いた弾道ミサイル攻撃を、情勢不安の大きい中東アフリカ地域に受けてしまったのだ。
内務大臣は治安維持の為に、更なる部隊の派遣をシャーロット大統領に求めた。しかもレジスタンス組織への参加者増大や、亜細亜条約機構による支援も警戒すべきだと付け加えた。
その指摘は尤もな内容だとシャーロット大統領は判断した。ロシア戦線で劣勢な状況の亜細亜条約機構としては、新たな戦線構築によるヨーロッパ合衆国の戦力分散が優先すべきものであった。
2正面作戦は愚の骨頂であるが、亜細亜条約機構なら役割分担によりそれが可能でもあった。戦力的にもそれは裏付けられており、ヨーロッパ合衆国もそれを恐れていた。
だがまさか弾道ミサイル攻撃だとは思っていなかったのである。しかしその心理的効果は抜群であり、中東アフリカ地域のレジスタンス運動は過激になっていた。そこでシャーロット大統領は人造人間師団を現状の半数程度を治安維持活動として投入する事を決めた。
国家憲兵隊も増員するが、人造人間師団なら1人で運用可能な為に人員コストも最小限に抑えれるからである。人造人間師団には治安維持を、国家憲兵隊にはレジスタンス組織摘発という役割分担も決定された。
資源的には中東アフリカ地域の併合により心配は無くなった為に、人造人間や各種兵器の増産体制は問題無かった。
シャーロット大統領の決断は即座に実施される事になった。