プロローグ
やんとか書きました。
木内 紀平は、動き易さを重視したラフめなファッション・スタイルがお気に入りであった。
正直、着る服になどそれ程興味があれ訳はではなく、とくに愛着のある服なども持ち合わせている訳でもない。
いつでも値段の安さだけで選んだような、いかにも軽そうな衣服に身を包んでいた。
その日も彼は、黒いハーフパンツに無地の白いTシャツといった創意工夫の欠片もないファッションを選んでいたのだが、とくにそれを気にするというようなこともいつも通りないのであった。
本人はそれがむしろ今風のお洒落のスタイルなのどだと自信を持っていたくらいなのである。
さて、紀平は、学校帰りに駅前のお気に入りの書店に寄り、好きな作家の小説の文庫本を一冊買ってから自宅アパートに帰る途中だったのである。
学校とは、都内にある某有名大学であり、彼はアルバイトをしながらその大学の文学部に通って勉学に励むという生活を送っていたのである。
━━早く家に帰ってこの本を読みたいな。
などと心を躍らせていたのである。
紀平はこの時、大学一年生。まだ大学に通い始めて半年と経っていなかったのである。
十九歳という若さでもあり、しかも高校生の頃からある程度、体育会系の部活動を経験したこともあるというだけあって、体力には少し自信はあったし、実際、いざという時の身の熟しにも不安はあまりないのだった。
それでも・・・、であった。
それでもその危機は急に訪れたのだ。
それがあまりにも急に過ぎたので彼は避け損ねるところであったのだ。
『メンドクセー、停まるのなんてメンドクセー!停まるにはブレーキをかけなくちゃならねえんだ。しかも停まったら最期、次に動き出す時には莫大なエネルギーが必要なんだ。あーやだやだ、そんなのメンドクセー!ブレーキかけるくらいならこのまま突っ込んで飛び出した方が楽だぜ!ただし俺様を轢いたら轢いた方が悪いのだぜ!ひけるものなら轢いてみやがれ!』
そんな怒鳴り声にも似た声を聴いたような気がした。
次の瞬間、であった。
紀平の眼の前に突然それは出現したのである。
反射神経には自身のある紀平であったが、タイミング的に、間合い的に、流石に回避出来るようなものではなさそうであった。
「わあっ」
紀平の口から.思わず叫びが漏れた。
どうぞ宜しく御願い申し上げます。