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第8話

 「はあっ、はあ……やっと、だな」

 城の中で男は荒く息をつく。破れた城壁、崩れた王座を前にしてひびの入った剣を杖のようにして床に突き立て、やっとのことで立っているその男の姿は、まさしく激戦を乗り越えた勇者であった。

 「よくやったなユースケ」

 そして勇者の背後、強大な存在感を放つドラゴン、勇者のユースケの相棒。ホーリードラゴンのアシュペーだ。

 「ああ、お前と一緒だからここまでこれたんだ。ところで、約束覚えてるか?」

 「約束?」

 「ほら、もし魔王を倒せたら、人間の姿を見せてくれるってやつ」

 「ふむ、そんなこと言ったかな。わかった、見せてやろう」

 くだらないことを覚えているものだとアシュペーは感心しながら、光を放ち体を縮め人間に姿を変じ始めた。

 「あ~たのしみだなあ、やっぱりドラゴンってあれだろ、人間の姿は長身で」

 (むっ?)

 「やっぱボンッキュッボンッ! なんだろ?」

 (むむっ??)

 「あれ、どうしたんだよ無口になって」

 (ま、まずいぞ)

 アシュペーはユースケの言うような姿には変身できない。そもそもアシュペーはドラゴンに変身する力を授かった神官なのである。人間の姿になるということは、元の姿になるということを意味する。

 「そうそう、角もやっぱりでかいのかなー、なあ、人間体の角も触らせてくれよ」

 (角ッ?! 何を言ってるんだこいつは!)

 アシュペーの角は短くて小さい。ユースケの期待に沿うものでは決してない。アシュペーの脳内には失望するユースケの姿がありありと浮かんだ。

 「あ、ごめんなアシュペー、おれ変な期待してて……コンプレックスだと知らずに色々言って……」

 きっとそんなことを言うに違いないのだ。

 無欲なユースケが魔王討伐の暁にはと望んでくれたのがアシュペーの人化なのだ。失望させるわけにはいかない。だがアシュペーの人化は元の姿に戻るということ、姿を自由に変えることはできない。

 だが、これ以上時間をかけてじらして期待を募らせるのはまずい。

覚悟を決めてアシュペーは人化の呪文を発動した。発動中に発生する光に紛れて隠れることも考えたが問題の解決にはならない。ユースケとの絆に期待することにした。期待に沿うような姿ではないけど許してくれるだろうと。

 そして光が収まった後人の姿になったアシュペーはユースケに話しかけた。

 「ユ、ユースケ、お前の期待にはこたえられないかもしれないが、これが私の人の姿だ……あれ?」

 ユースケはアシュペーの思うような反応をしなかった。人化した姿を観察したりするのかと思ったが、顔を真っ赤にして自身からそらしているのだ。

 どうしてそんな行動をするのかと疑問に思ったアシュペーだったが、すぐに理由に気づいた。

 「────ッきゃあぁぁぁ!!」

  

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