第五話 旅人と弟子
全然毎日小説書けてないです。
「師匠」
吹雪吹きすさぶ雪原でライパは先を歩む旅人に声をかけた。
「どうしたライパ」
師匠と呼びかけられた男は振り返りもせず大声で言い放つ。びゅうびゅうと吹き付ける凍てつく風の中では、小さな音はたやすくかき消されてしまう。
「師匠、もしかして僕たち遭難したんじゃ──」
ライパは吹雪に負けないように大きく口を動かし大声を出そうとしたが、凍てつく風が口に入り込み、思うように動かせなかった。
「大丈夫だ、もうすぐ着く」
師匠は意をくみ取りライパに返した。ライパは声が届いたことに安心するも、返ってきた言葉にはいぶかしむ気持ちを抑えられなかった。
「師匠、二時間前にもそう言ってましたよね」
「ムッ」
”師匠”は痛いところを突かれ、うめくことしかできなかった。それというのも、彼らはこの吹雪の中かれこれ3,4時間はさまよっていた。二人は師匠を先頭に進み続けていたため、人里に着けない責任はひとえに彼一人の肩にのしかかっている。
吹雪の中懸命に歩を進めていたため、表情は互いに確認できなかったが、師匠にはライパのあきれ顔が目に浮かぶようだった。
しかし実際、吹雪の中長時間移動するというのは体力を大きく消耗する。早くゆっくり休める場所につかなくてはと焦りが強まってきたとき、師匠の視界の先に明かりが見えた。
「見えてきたぞ、ライパ」
「おお、今度は言った通りでしたね」
「ムムッ」
少しの毒を吐きながら、ライパは師匠の横に立ち人里の明かりを見やった。
「あれは村ではないようですね」
「ああ、あそこにはこの山の狩人が住んでいる。」
「狩人……」
彼らが今現在横切っている雪山、名をタレント山というその山は一年中雪が降りしきり、体力を奪うその雪により動物たちは去り、植物も枯れはてている。ここにいて狩ることのできる生き物はいないはずだ。自分たちのような旅人も格段の理由がなければここへは来ない。人里はもっと山の裾野の端にあるものだ。ライパは「山に行くぞ」とだけ言われてついてきたため、いまだ師匠がなぜこんな場所に来たのかわからなかった。
「師匠、そろそろ教えてくださいよ、どうしてこんな山奥に来たんです?」
「うむ、教えよう。だが、こんな寒い場所ではゆっくりと話して聞かせることはできないな」
師匠はそう言って小屋を見やった。そして話しているわずかな間にさえ降り積もった、ブーツの上の雪を振り落としまた歩き始めた。
小屋は素朴な作りだったが、どうやら普通の人間のことを考えられて作られたようだった。中には火の力を持つ魔石でできた魔石ストーブが明るい火の光を放ち、二人を迎えてくれていた。外の冷気が入らないよう素早く入った二人はつけていたコートを外し壁掛けに掛けた。
「さて、そろそろ話してもらいましょうかイーゼ師匠」
「うむ、さてどこから話そうかの……では、この雪山が雪山でなかったころから話そうか」
イーゼは小屋の椅子に腰かけながら話し始めた。ライパは魔石ストーブの近くで暖を取りながら話を聞く姿勢を取った。
ここタレント山は数十年前までは緑豊かな森を抱えた霊山であった。ふもとに住む人々はこの山の恵みで生活していた。土壌が豊かであったためふもとでの農業や畜産がうまくいっていた。しかし、このタレント山の恵みの本領は山の頂上付近にあった。そこには美しく神秘的な精霊が住んでいたという。精霊というものは人の前には姿を現さず、そもそもこの世界に住むものでもない、この世界の近縁に妖精や精霊のみが住まう世界があるというが、タレント山に住む者たちは例外であった。
彼らは人と交わることを好み、進んで人の前に姿を現した。それどころか、彼らは自身の特別な力を人のために奮ったのだ。
しかし、彼らはそのために人間に利用され搾取されるようになった。初めのうち、彼らは自分たちが搾取されることにも気づかなかった、段々と人間たちが彼らに無理難題を強いるようになってきて初めて自分たちが置かれた状況を理解するに至った。彼らは反抗しようとしたが人間たちに体よく言いくるめられ、おそらく自身で考える力をマヒさせられた、つまり洗脳された状態になり人間の言うとおりにせざるを得なかった。しかし、ある時心ある村人が彼らの洗脳を解いた。そうして人に利用されたことに怒り狂った精霊は、自らの自我を犠牲にしてタレント山を命を奪う雪の吹きすさぶ恐ろしい雪山にしたのだ。
事の次第を聞いたライパはイーゼがなぜ自分を連れてこの山に来たのかわかった。
「なるほど、師匠がここに来たのは、その精霊を封じるか、討伐するためなんですね」
人に利用された挙句、自我を失い最後には人に討伐される。哀れだが、そうするほかないのだろう。
「ふむ、実はこの話には続きがあってな」
イーゼはライパの問いに答えず話をつづけた。
「精霊の洗脳を解いた村人は後年それを悔いたのだ、ほかの方法はなかったのかと、しかし時すでに遅く。精霊は正気を失っていた。その時から彼は決めたのだ、精霊をこうしてしまったのはほかならぬ自分であるのなら、引導を渡すのも自分であるべきだ、と」
そのとき遠くから大きな地響きのようなものが聞こえてきた。
「ライパ、わしらの仕事は精霊の討伐などではない。」
ライパは窓の外に大きな人影を見つけた。それは山と同じかそれ以上の高さで輪郭はおぼろげだが確かに人の形をしていた。
「わしらがここに来たのは、自我を失ってでも精霊を討伐しようとした、かつて人だったものの討伐だ」




