第四話 消えた男
chu!失踪してごめん♡
男は不思議なオブジェの前で立ち尽くしていた。
何も見るものもない寂しい荒野に立ち尽くすその男は、通りがかる人々にとってはいい話のタネだった。
人々は時折彼に話しかけたが、男は返事をしなかった。どのような呼びかけに対しても、頑として返さなかったので人々は男を人形か何かだと思った。しかし、男に触れてみると体温があり、男自身にもほんのわずかな反応があった。男は間違いなく生きていた。そして奇妙なことにその男は昼夜問わず立ち尽くし、休憩する様子も食事をとる様子もない。男はまるで幽霊か何かのように立ち尽くし、爬虫類のようにかすかな体温があった。人々は口々に男を悪魔や怪物のたぐいだと噂した。しかし、男はずっと立ち尽くすばかりで特に悪さもしなかったので、その噂もすぐに止んだ。
人々の口に荒野に立つ男のうわさが絶たなくなったころ、ある興業者が男に目を付けた。男の周りを作で囲い、不死身不動の男としてあたりの町々に宣伝したのだ。興味をそそられた街の住人は一目その男を見ようとはるばる荒野にやってきたが、柵で囲われよく見えなかった。興業者が建てたその柵には戸がついており料金を払うと中に入れるようにしていた。興味を惹かれわざわざ荒野にやってきた物見の衆は後には引けぬと金を払い男を見に行った。興行主はこの方法で儲け続け、噂が噂を呼び、やがて男の周囲には小さな宿場町ができるまでになっていた。不死身の男がいる町として知られるようになったころ、彼らに転機が訪れた。
実のところこれまで男に触れる者はいたものの、男が対面しているオブジェに触れたものはいなかった。それは何かの像のようであったが不定形的でおぞましい雰囲気をまとっていた。吸い込むような黒色のオブジェは見る人をぞっとさせたが、それでも不死身の男、不動の男に対する興味は尽きぬばかりか増大していった。男は本当に不死身であった、ただ飲まず食わずで生きているというだけでなく。斬っても突いても死ななかった。これは町を訪れた異端審問官が行ったためにわかったことだった。そうしたオブジェだったが、あるとき、一人の少年がオブジェに触れてしまった。その瞬間であった。それまで、ずっと、数十年も無感情で無反応でいた男は突如歓喜して少年に、お前は呪われたと叫びだした。少年と周りにいた人は驚きおののいた。男はなおも狂喜し哄笑しながら見る見るうちに体が朽ちていき灰になっていく。そのとき、少年は自身に邪悪な力が流れ込んでいくのを感じた。一連の成り行きを恐れで棒立ちになっていたが、何が起こったのか飲み込めたものから叫び逃げだしていった。オブジェは触れたものに不死を与え、ほかのものがオブジェに触れればそのものに不死を与え、それまで不死だったものからその力を奪っていくのだ。それは邪悪に他ならなかった。少年は失意にのまれ、立ち尽くした。まるで、つい先ほど消え去った男のように。




