007. 成立(2)
「大丈夫?赤目の子」
女の人は血を洗い流すなど、ヒースに応急手当をしてくれた。顔のあざも少し引いている。
「骨をいくつか折っちゃってるね〜。とりあえず、包帯巻いて固定したからなんとかなるかな?」
「……すみません。ありがとうございます」
「いいのよ!」
女の人は笑顔を見せて親指を突き立てていた。
「赤目を持つのは大変ねー。全身ひどい筋肉痛みたいだけど、ずっと逃げて来たの?」
「……はい。ずっと走って来たんです」
「そっかー。君、親は?早く家に帰った方がいいよ」
分かっている。悪意はないんだ。でもヒースにとってその言葉は辛かった。
ヒースは俯いた。
それを察した女の人はぎくりとする。
「あぅ……悪いこと聞いちゃったね。ごめん、忘れて。
実はさ、私も今追われてて、逃げているんだ!
そしたら、たまたま子供をいじめている人を見かけてさ。まさか赤目を持つ子供に会えるとは」
女の人はヒースの瞳を覗き込んだ。
「へぇー。これが世間を騒がせている赤目かー。確かに見た目が全然違うね。売られるための子供に染められた赤い瞳は真っ赤で血の色って感じだけど、君はとても鮮やかな赤色だね」
そうだ。ヒースはこの瞳のせいで狙われている。そして、連れ去られかけたところをこの女の人が助けてくれた。紛れもなく、救世主だ。
しかし、まだ可能性は十分にある。この人も、ヒースを狙っている人だということが。
「……あなたも、俺を売るんですか?」
女の人は驚いたのか、瞳を大きく開けた。その後、腹を抱えて笑い始めた。
「私、君を助けんだよ??ひどいよ!私がそんなことするように見えるの?」
「じゃあ、なんでですか?なんで助けてくれたんですか?」
女の人は人差し指を突き立てて、顎に当てて考えた。
閃いた様子で、ヒースを指差しながら話した。
「君にして欲しいことがあるの。それは君にしかできない。だから助けた。そして、私と共に行動してほしい。どう?この言葉は信用できそう?」
ヒースはじっくりと女の人の顔を見た。特徴的な顔の動きの変化は見られない。嘘はどうやらついていないようだ。
「……具体的には何を?」
「おっ?乗ってきたね?
とりあえず、資金を集める。君はおそらく所持金が無い。そして、私も底を尽きた。君にはそのお手伝いをしてもらう。逃亡資金が必要なんだよ、私には」
「……分かりました。やります」
「よし!決まりね!」
嘘をついていないし、女の人は強かった。この人から強さを教わって強くなった方がいいと考えた。それに、やはり一人では行動できない。また連れ去られたら、本当にお終いだ。今回は本当に運が良かっただけだ。土地も、人も、文化も何もかも知らないことが多すぎる。まずはこの人と行動を共にして色々と知る必要がある。だから、この提案に乗ることにした。
「ティーシャ=マレットよ。ティーシャでいいわ」
ティーシャは右手を差し出した。
「ヒース=ヘムズワーヌ」
ヒースは差し出された手を強く握った。
「ヒースか、よろしくね!ヒース」
その時、どこからか爆発音がした。大きな音が森中に響きわたる。鳥たちが危険を感じて空へと飛び立った。
空には黒煙が上がっている。
「え?何が起こってるんだ?」
ヒースは少し揺れる地面と、見たことのない空気の波を感じ取って気味が悪くなった。
「やばい……。奴らが来た──!!」
ティーシャは上がる黒煙を睨みつけていた。