表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/46

005. 生まれ変わりの一発(2)

ヒースは気づかれないようにゆっくりと馬車から抜け出した。


前方を見ると、確かに男三人が岩をどかす作業をしている。


辺りを見渡すと、山の中だった。そこに一本の道路が山を縦断している。左右には木が立ち並んでいて、ヒースはその中へ向かって走り出した。


両手を縛られていて、とても走りにくいが、前へ進んでいく。


森の中に入った。よし!とりあえず、これでこの状況を切り抜けられる。


と思ったら次の瞬間。体がグラリと揺れた。目の前の視界が反転し、気づけば地面に倒れ込んでいた。


そう、ヒースはとっくに限界だったのだ。足がもつれて動かせない。筋肉痛でさらに痛めた関節が悲鳴をあげていた。


倒れた時の音で男三人はヒースが逃げ出していたことに気がついた。


三人とヒースは目が合った。すると、男たちは表情を変えて向かって来た。


「起きてやがったのか!!追えー!!」


三人が走ってきた。ヒースはなんとか体を起き上がらせて森の中を走っていく。


しかし、地面は起伏が激しく安定して走れない。おまけに疲れ切った体の疲労が更にヒースを追い込んでいく。


その間に男たちはヒースに追いついて、一人の男が背後からヒースを蹴り飛ばした。


ヒースは勢いで転がり、大きな木にぶつかった。起きあがろうとするが、体が動かせない。よろよろと立ち上がっても、すぐに地面に座り込んでしまう。


「待て!!生かせた状態で捕まえたら一億だ!死なせたら元の子もない!!」


「馬鹿野郎!一蹴りで死なねぇよ。それに危うく逃げられるところだったんだ。仕方がねぇ」


ヒースは息をあげていた。


体は動かず、疲労がずっしりとヒースの体を覆っていた。


この危機的状況では、どうしようもない。ヒースは諦めかけていた。誰か、助けに来てくれないかと心から願っていた。





──……違うだろ!!その考え方は、もう捨てろ。


ヒースは心の中で呟いた。


そうだ。ヒースを守ってくれたもうあの二人は死んだ。


それを受け止めきれないヒースはまだ逃げている。二人が死んだことを受け入れる恐怖。何もできない自分がこれから生きていくことへの恐怖から。


何もかもガルダとリリーから与えられた幸せを当たり前に思っていた。だけど、その二人はもういないのだ。


リリーに生きろと言われた。ガルダにはできると勇気をもらった。そして誓った。二人の夢をヒースが代わりに叶えると。


こんなところで諦めてはいられない。もう逃げることは許されない。


助けを求めて、誰かにずっと甘えてた自分はもう捨てなければならない。


一人でやればいい!!この状況で、あり得ない妄想をして、助けを求めるな。


俺はもっと強くならなくちゃいけない!


自分を信じてくれた人に恥をかかせるな。自分を信じてくれた人に胸を張っていられるようにしていないと、天国で見守る二人に会わせる顔がない。


ヒースは両手を縛り上げている紐を噛んだ。顎に力を込めて、硬い紐を噛みちぎった。


両手が解放された。ヒースは立ち上がると、男たちを睨みつけて、構えた。


「何してきやがるか分からない。慎重にいくぞ……」


「馬鹿野郎!相手はガキだ。こっちは三人!しかも大人。オレたちの方が圧倒的有利。ビビらずもう一度ガキを拘束するまでだ!!」


一人の男が走ってきた。ヒースは集中する。よく観察する。


目の動き、筋肉の動かし方。クセや拳を放つ時のタイミング。


それらが波になって見える。空間に白い線が描き出される。目が動いた時、筋肉が動いた時、それによって生じた波が白い線で見える。


攻撃してくるときと位置を予測して、ヒースは守りに入る。


男が拳を振ってきた。白い線の波が見える。それを避けると、相手の拳を避けることができた。


「何??」


大人たちは驚きを隠せない。


ヒースはまだ集中を切らさない。


ヒースはずっと見てきた。ガルダが生きていた時、ガルダは毎日外で(くう)に拳を放っていた。そのフォームはとても綺麗で、毎日見ていた。


その時の波、白い線を思い出せ!!ガルダがどのように体を使っていたか、筋肉を動かしていたか、全部理解している。


それを体現しろ!!今、生まれ変わるしかない。


ヒースは叫んだ。


不意に、ガルダの姿が見えたような気がした。ガルダが一緒に拳を振ってくれているような気がした。


ヒースは渾身の一撃を放った!!


男の顔に拳が当たり、男は地面に倒れ込んだ。


傍観する他の男たちは今何が起こったのか分からなかった。


ヒースは鼓動が鳴るたびにジンジン痛む右手の拳を見た。そして、もう一度、力を込め直して男たちを見た。


男たちは更に表情を変えて、二人とも構えた。


ヒースの初めての一発は、森の中に轟く重たい一発だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ヒースかっこいいです!!ここから生まれ変わっていけ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ