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004. 生まれ変わりの一発(1)

ヒースはあの後もずっと走っていた。もう何日走ったのかも分からない。足がもうはち切れそうで、肺が痛くて何度も何度もむせた。それでも走り続けた。


途中で通ったザックおじさんの家は襲撃されていて、家は燃やされていた。きっと男二人組に脅されて、赤目を持つ俺の居場所を教えたのだろう。


その家を過ぎたのはもう遠い過去のこと。今俺はどこにいるのか……。



眠たい……そんなはずない。だってこんなに走り続けているのに。しかし、眠たい。


もう力尽きそうだ。それが眠気の原因だった。いつの間にか積もっていたはずの雪は無くなり、一面が薄暗い灰色の地面だった。


陽が登り始めた。地平線からチラチラと太陽の光が見えた。灰色だった地面は緑を取り戻し始めた。日光が明るく世界を照らしていく。


ヒースは顔を上げた。そして立ち止まった。目の前の景色を見て、ようやく安心する。


「やっと、ついた……」


木造の家があちこちに立っているのが見えた。これが、ガルダの言っていた村なのだと分かった。


襲うのは人。だから危険なのは十分に理解している。しかし、ヒースを救ってくれるのも人だ。まずは、ヒースを助けてくれる人を見つけたい。この力尽きた状態では、すぐに捕まるし、何せ護身術なんて知らない。つまり、喧嘩や争いが出来ないのだ。


誰かに、守ってもらう必要がある。まだ十四歳のヒースは体つきも小さく、命を狙う大人たちには及ばない。


とりあえず、村に着いた。そのことに、とても安心したヒースは少し油断をする。


あまりの眠たさに、欲求に負けてしまった。ヒースはその場に倒れ込んで、眠ってしまった。


少しの安心と、油断。それがヒースを苦しませる。



目が覚めると、目の前は木の壁が見えた。ヒースは地面に倒れていた。その地面はガタガタと揺れ、頰と体を打ちつけている。あまりの不思議の感触に戸惑った。骨に響くような揺れだった。


さっきまで野原の上で眠っていたはずなのに。どう言うことだ?上下左右木の板?大きな木の箱の中にいるのか?


考えていると、声がした。ヒースは驚きのあまり、目を瞑って寝たふりをする。


すぐ後ろで誰か話している。声は二人いる。両方男だ。ガルダとリリーを殺した人たちではない。


手足を動かそうとしたが、両手は拘束されていた。




拘束された両手。二人の男。ヒースは考察した。


──おそらく今、連れ去られている。


「にしても、オレたちもラッキーだよなー。野原に行ったらまさか赤目の子供が落ちてるなんてよ」


「あぁ。本当に運がいい」


実は今、ヒースは馬車に乗って運ばれている。馬車に乗っているのはボロボロで薄汚い服に身を包んだ二人の男。そして、馬車の外には馬に指示を出すもう一人の男。


ヒースは眠っている間に三人の男に連れ去られてしまったのだ。


いきなり危機が訪れている。


両手は縛られて、相手は三人。しかも、疲労のせいでほとんど体も動かすことができない。誰かに頼ることもできない。


ヒースは箱入り息子で、世間のことはまったく知らず、馬車なんて言うまでもない。今何が起こっているのか、どういう状況なのか、はっきり分かっていない。


しかし、今連れ去られているということだけは分かった。


「でも、こいつが本当に赤目の子供なのか、よく分からないよな」


男たちはヒースがまだ眠っていると思い込んで、話をしている。


「ああ。今じゃ世界中が大混乱だ。その子供を探すために殺しを始める人たち。さらに、自分の子供の目を赤く染めて売り飛ばす貧困層の民で溢れかえってる」


「連合会の支社はそんな人たちでごった返し、もう誰が本物なのか訳が分からない」


「情報が少なく、『赤目』って言うのがキーだからな。まあ、とりあえず持っていったら分かるさ。それでもし本物だったのなら、オレたちの手には一億さ」


「……でも、その子供は、いったい何を犯してこんな破格の懸賞金をかけられたんだろうな?」


「分からない。そんなこと、オレたちは知らなくていいのさ。早く、この貧困から抜け出したい……」


「この辺は世界の底辺。オレたちはそこで生きるしかない。神殿近くの街はもっと華やかで、裕福な奴らでいっぱいなんだろうな」


男たちは歯を食いしばった。


「そいつらはオレらが血を吐いてまで納める税金で暮らしてんのさ。そいつらさえいなければ、神さえいなければ……」


「それ以上言うな。殺されるぞ。神はどこからオレたちのことを見ているか分からないんだぞ!!」


「神は間違いを犯さない。神に祈り続けるしかないのか……」


「そうだ。だから、今は耐えるしかないんだよ」


世界で起こる混乱。ヒースに懸賞金がかけられて一ヶ月経っても、そんなことが起こっているのだと外の世界の状況を理解した。


馬の鳴き声と共に、馬車が勢い良く止まった。


「どうした?」


「すまねぇ。道に大きい岩があってそれをどかさないといけない。お前ら、手伝ってくれ」


「分かった。早く済ませるぞ。まだ赤目の子供は眠っている」


馬車から男たちは降りて、岩をどかしに行った。




──今しか逃げ出す時はない!!

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