003. 一億の子供(3)
ヒースは目が良い。だから、ほんのわずかな動きとか、仕草とかを見分けることができる。釣りの時、魚がかかるのがいち早く分かったのは、かかった魚の動きによって生じた海の波、それに揺らされた空気の波。それらを視覚で感じとり、脳で処理しているからだ。
つまり、ヒースは目が良いと言うよりは、見え方が特殊なのである。物を見る時も、その物の物質や形、様々な要素を捉えて脳で処理している。
ヒースはずっと秘密にしていることがあった。それは、ガルダとリリーは本当の親ではないと言うことを知っていたこと。二人とも、ヒースに黙っていたが、目のいいヒースはその真実に気づいていた。それに気づかないふりをしていた。
そもそもとして、似ていないのだ。何もかも、ヒースの家族は。見え方が異なるヒースにとってその違いを見分けることはとても容易かった。筋肉のつきかた、体の形と言う生物的観点。また、仕草、性格、言葉遣いと言ったら観点。そしてもっとも大きいのは、目の色の違い。
それでも、小さい時からここまで大切に育ててくれた、そんな二人は本当の親と言っても過言ではない。
筋肉の収縮、目の動き。次に、それをずっと見ていると、その時の感情でさえも、視覚として分かるようになってくる。
たまに、ガルダとリリーはヒースを見て懐かしさに浸る表情をする。きっと、ヒースを本当の両親と照らし合わせてるためだろう。
ヒースの本当の両親は冒険者で、二人に何か事情があり、リリーとガルダはヒースを引き取ったのかもしれないと思った。
とにかく、ヒースの顔を見た時、リリーとガルダは冒険者だった頃のことをよく思い出していたのだ。
二人はヒースを守ってくれていた。だからこんな底辺の世界で三人で暮らしてきたとヒースは分かった。誰にもバレないように、見つからないように。
なぜヒースが政府から狙われてるか、考えても分からない。でも、きっとそれを避けてヒースをここで育てていたと気づく。
そして、ヒースはもう一つ気づいたことがある。それは、二人は『地平線の彼方』へ行ったことがあると言うことだ。
話をするときの二人はヒースを見る時と同じように懐かしさの目をしてる。
でも、その先は知らないと言った。あれはどうやら本当みたいだ。二人が嘘ついてたらヒースはすぐ分かる。嘘をつく時は、いつも表情が強張ることをヒースは理解している。でも、話している時はそれが見られなかった。
だから、ヒースは本当の親のように育ててくれた二人の夢を叶えてみせたい。そう誓うようになった。
これがおれが二人にできる親孝行だ、と。
ヒースは走りながら大声で誓う。
「おれは、地平線の彼方へ行く!!ここからはおれが!!俺が二人の意思を継ぐ!!二人の夢を叶えてみせる!!!」
だがら見てて。天国で、二人で。俺を、ヒースを。