フラワーホール
軽い気持ちで読んでください。お願いします。
(明日は絶対〇〇時にあの場所に集合だから!遅れるとか無しにしてよ!!)
昨日彼女から送られたメッセージは、いつもの穏やかな口調ではなく、僕は少しばかり緊張していた。どこか気づかないうちに怒らせてしまったのだろうか。ここ最近、彼女は僕と目が合うとすぐ逸らすし、ずっとそわそわして会話もぶっきらぼうだ。ずっと穏やかに築いてきた関係で喧嘩だってない。周りにとっちゃ遅くとも確かに二人で愛を育んで来たと思う。
約束した場所で約束した時間より少し早く来て、まだ現れない彼女の事をベンチに座ってぼうっと考える。目の前の噴水は綺麗にライトアップされていた。
寒空の下で待つのはこれが初めてだった。吐いた息が白い。いつもだったら、几帳面な彼女は僕よりも早く来て、僕が来たことに気がつくと携帯電話からパッと顔を上げて柔らかく微笑んで駆け寄って来る。その表情がとても愛おしかった。
ーやっぱり何か怒らせてしまったのかもしれない。
不安な気持ちが押し寄せてくる。寒いせいもあってか思考がネガティブな方向へ向かっていく。その時ほのかに花の香りが舞った。
「、、、遅くなってごめん、待った?」
パッと顔を上げると寒さに顔が赤らんだ彼女がいた。つぶらな瞳に少し申し訳なさそうに下がった眉、パリっとしたスーツ姿。僕は少し目を見開いた。いつもワンピースの彼女にしては珍しい。手には大きな花束。
色とりどりの花は全て形も大きさも違ってバラバラのようにも見えたが不思議と纏まっていて、綺麗で美しかった。
彼女は花束を大事そうに抱えながら、目線を花に落とした。
「ベルフラワーの花言葉は、誠実。ネモフィラは、可憐。ボタンは思いやり。、、、そんな素敵な人になって私はあなたの隣で歩いていたい。、、あなたから見たこの、花束は綺麗ですか?」
そう言いながら彼女は僕に目線を移した。
視線が熱く感じた。体も火照っている。この言葉の意味を分からないわけがない。欲しかった言葉。言いたかった言葉。互いに望んで、譲り合っていた言葉。彼女は僕から視線を逸らさず抱えていた花束を僕の胸に押し付けた。
「私と、結婚して。」
僕はそのまま彼女を抱きしめたかったが、グッと堪える。彼女のくれた花束に目を落とす。ベルフラワーの花言葉は、誠実。ネモフィラは、可憐。ボタンは、思いやり。ひとつ一つ見ておやと思った。桔梗の花。その花だけ、彼女は花言葉を言わなかった。不思議に思いながら、その花を一本引き抜いて彼女のスーツのフラワーホールにさす。それはプロポーズを承諾する合図で。
「もちろん。」
そのまま彼女を抱きしめた。もう寒さなんて感じなかった。