もどかしい思い
「おはようございます」
「あぁ」
簡潔な一言で朝食は始まった。
二人の間に会話はない。
最初は口を利きたくないという理由であえて顔を合わせなかったが、今は違う。
明らかに避けているのだ。お互いがお互いを。
話をするために来たのにお互い話を切り出せないで居た。
カランッ――
「あっ」
動揺でファナの手からナイフが滑り落ちる。
小さく声を上げたファナは失敗したとでもいうように目を瞑った。
「式でもそんな失敗をするわけじゃないだろうな」
グレイスの冷たい声が響き渡る。
ファナは驚いてグレイスを見るが次には無表情に戻っていた。
「しません」
「ならいいんだがな」
挑発的に睨みつけるとグレイスは馬鹿にしたように鼻で笑った。
ため息をつくのを我慢して新しく準備されたナイフを手に持つ。
「―いたっ」
落とした時に刃を擦ったのだろう、ファナの指から薄く血がにじみ出ている。
手当てをしようとしてランを呼ぶ。
「ラン、怪我してしまったの手当て、お願いできるかしら」
指をランに見せる。
その瞬間、ガタッという音が辺りに響いた。
音がしたのは向こう側、グレイスのいるほうだ。
まさかとは思いつつ振り返ると向こうも驚いたようにファナの指を凝視していた。
「「その指、…」」
「「今、準備します!」」
ランとグレイスの声が重なる。
それにハッとしてランの方を振り返るとランは罰が悪そうに頭を下げている。
「陛下、何かおっしゃいましたか?」
立っているままのグレイスに声をかける。
グレイスの目はファナの指を見たままだ。我に返ったようにグレイスは咳払いをする。
「いや、なんでもない。手当てをしにいけ」
手で軽く促すとグレイスはそのまま席を離れる。
「何処に行かれるのです?」
「まだ仕事があるからな、戻る」
部屋を出て行くグレイスに声をかける。
振り返った顔にはもう、さっきの焦りの表情はなかった。
「了解、いたしました」
その言葉に表情に落胆を覚える。
何故?
分からない。
このもやもやした気持ちの正体はナニ?
心配、して欲しいなんて……
「馬鹿ね」
グレイスが去った部屋でファナは一人呟いた。
更新が遅くなりました。
今度は頑張ろう。