歩み寄るために
お茶会はその後、何事もなく進んでお開きとなった。
結局その後もファナはキルの《大事な人》として紹介され続けたが……。
そして、今朝である。
ファナがいくら願っても時間は待ってはくれない。
婚儀が済むまではお互いに時間がないからせめて朝だけでもという合意のもと一緒に朝食を摂るということになっている。
もちろんその相手とはグレイスのことだ。
昨日の今日で気まずいことこの上ない。
「姫様、どうされます。朝食は別にお願いいたしますか?」
昨日のいきさつを知っているランはファナに助け舟を出してくれた。
しかしそれではダメだと自分に言い聞かせてファナは首を振る。
「いいえ、もう準備されているはずだわ。ありがとう」
でもっ…、とランは何か言いかけて口を噤んだ。
おそらく自分のことを案じてくれたのだろう。
ランの視線からそのことが直に伝わってくる。
だからこそだ、だからこそこれではいけない、自分のやったことだ、自分で決着をつけなければいけない。
「行きます」
ランは一瞬、口を真一文字に引き結んだあと、「かしこまりました」と頭を下げた。
グレイスの朝は早い。
皇帝というだけでかかってくる仕事は皇太子の頃の10倍はある。
自分でも仕事は速いと思ってはいるのだが、それでも次々と仕事は立て込んでくる。
昨日遣り残した書類を片付けながらグレイスは深いため息をついた。
「どうしたんです?陛下。仕事が片付かないようであれば朝の朝食はお断りしますか」
「いや、いい」
簡潔に答えるとルイはそうですかと次の資料に手を伸ばした。
できれば本当は断りたい。だが、それは自分勝手な理由だ。
ファナは昨日のことなど気にしていないかもしれない。
気にしていないといったらそれはそれで問題だが、ファナには笑っていて欲しい。
自分がファナとの関係にヒビを作った張本人だというのにそれでもファナに自分のことを見てほしいと思ってしまう。
浅ましいことだと思う。
それでも自分から謝ることができないこの立場が恨めしい。
いや、立場を理由に逃げているだけなのだ。
謝ろうと思えば謝れるはずだ。
それでもまだ、ファナが動いてくれることを期待している。
「陛下には一度じっくり話をされるのが良いと思いますが?」
「…………」
ルイは苦笑いを溢す。
おそらくルイは自分とファナの間になにかあったことは悟っているのだろう。
聞かないだけで。
「……抜ける、続きは朝食後にする」
「かしこまりました」
自分の気持ちに区切りをつけるために、ファナと向き合うためにグレイスは執務室を後にした。
またまた短い投稿です。
次回は少し長くなる予定です。
相変わらず不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いいたします。