着々と……
どうしてあの時、グレイスに付いていかなかった?
どうして?
後悔ばかりが残る。
それもすべて………
「キル殿下、どういうことです!?」
お茶会の途中、誰もいない廊下を選んでキルを呼び出すとキルはにこにことして付いて来た。
これからファナが何を言うかも知らず。
「君こそこんな暗い廊下に呼び出して、なんの用かな?」
これみよがしに大きな声を出して愉快そうに話すキルにファナの怒りの沸点は限界が来ていた。
「何の用ではありません!!貴方は私をなんと紹介しましたか!?」
「あぁ、そのことね」
怒りで我を忘れかけているファナと違い、キルは余裕そうに頷く。
またそれがファナの癪に障っていることにキルは気付いているのだろうか?
「僕の大事な人と紹介しただけだ」
「しただけ?勘違いされることを分かっていらっしゃらなかったのですか?」
ぎりぎりで自分を保ちつつ、肩で息をしているファナにキルはにこりと笑ってそれを制した。
「勘違い?僕は間違いは言っていないよ。僕の大事な人の大事な婚約者だ」
「それをなぜ省略されたのです」
ファナは怒りを通り越して諦めた表情を見せる。
確かに、間違いではないのだ。
グレイスはキルと従兄弟同士。そして自分はそのグレイスの婚約者だ。
だが、キルの言い方ではファナはキルの婚約者だと勘違いされてもおかしくはない。
いや実際に勘違いされてしまった。
そのせいで本来主役であるはずのグレイスの婚約者が現れないと大騒ぎになっていたのだ。
今更自分です、などと言えるはずもなく(しかもキルが隣にずっといたせいで抜け出すことが出来なかった)黙って自分の評価(グレイスの婚約者としての)が下がるのを見ていなければならなかった。
「あぁ、そのことなら勝手に誤解した貴族達が悪いんだ」
だから僕は間違っていないよとまったく反省の色を示さないキルにファナはため息をついた。
「では、私の評価が下がってしまったことキル殿下には関係がないと?」
「評価?評価もなにも貴族達は何も出来ないよ」
「何も出来ない?キル殿下は民衆のいえ、集合体の恐ろしさをご存知ないのですか?」
「知ってるよ……恐ろしいくらいにね」
一瞬、キルの周りの空気が変わった……気がした。
気がしたのはほんの一瞬でキルはその後、ころっと態度を変えて人懐っこい笑顔を見せてくる。
「だからさ、もし君に何か起きたら助けるから安心して」
「お願いいたします」
そういうことなら任せるとファナは頷く。
それを見てキルは一層笑みを深めた。
大変更新が遅くなり申し訳ありませんでした。
しかも内容がとても短いですが読んでいただけたら嬉しいです。
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