リチュワード国
緑溢れ、自然豊かな国リチュワード。それゆえ1000年以上も続いてきたこの国の後宮の更に奥、内宮と呼ばれる皇女、皇后、皇太后、皇太子妃、内親王という皇帝の次に身分が近しい者しか住めないところに彼女はいた。
そう、あの知らせを受けるまでは・・・。
「なんだか今日は騒がしいわね、ラン。後で見てきて頂戴」
そう、侍女に話しかけたところでふと、彼女は手を止めた。
「どうか、されましたか?」
少し俯いてしばらく何か考え込んだ後、ポツリと言葉を紡ぎだした。
「嫌な・・・嫌な予感がするの。ラン」
普段彼女は弱音など吐くことはない。いや弱音など言えない立場にあるからだ。幼き頃から皇族してのあり方を徹底的に叩き込まれた彼女にはいえるはずがなかった、実際に10年以上前から仕えているランでさえも弱音はもとより涙さえ一度とさえ見たことがなかった。
「大丈夫ですよ、姫様」
「そうね」
そういって笑った彼女は今にも泣きそうだった。
突然だった。
その知らせが来たのは・・・
「リチュワード国第2皇女 ファナ・リチュワード・アテナをボルツワーク国皇帝の正妃とし
て立后させる」
彼女はその知らせを後宮に来た大臣に聞いた時も頷いて「分かりました、そのように致しますと、皇帝陛下にお伝え下さい」とだけ告げて自室に戻ると大臣を下がらせた。
強い方なのだと思った、あんなことをいったのは単なる気まぐれだと・・・
でも彼女と彼女の自室に戻った瞬間分かった。
決して強い方なのではないと、いままでずっと我慢していたのだと。
「おめでとうございます。姫様、お相手の皇太子様も諸国に噂名高い姫様が正妃となられてさぞ嬉しい
ことでしょう。それに姫様に見合うお相手で姫様も・・」
「・・・・っ」
「姫様いかがなさいました?」
「どうしてっ・・・私なの」
「・・・っ!!」
「私はお父様に捨てられたの?」
ランはしばらくその場から動けなかった。
次の言葉が見つかるのにどれくらいの時間がたったか分からない。それまでずっと横で泣き崩れた自分の主と肩を抱き合って泣いた。
「ひめ・・・さま」
とても長い時間に思えるような時を泣いて過ごした後、ランは遠慮がちに彼女に声をかけた。
「ラン」
透き通る声だった。「はい」と呼ばれた方を見てランは固まってしまった。
先ほどのことが嘘のように彼女はまっすぐ窓のほうを・・・いやそのもっと遠くを見つめていた。
「私はボルツワークに行きます。ついて来てくれますか、ラン」
「はい、お仕えさせて頂きます」
「ありがとう」
このとき、すべてが始まった。
誤字脱字があればご報告頂ければありがたいです。
短い文ですが、もう少し物語が深くなってきたら長くなるかと・・・
ここまで読んでくださった方に感謝感謝