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花咲く頃に  作者: らいん
14/22

変化と戸惑い



「そう、分かったわ」

今日も伽を命じられて報告にきた侍女を手で制止させて引き下がらせるとファナは大きく息をついた。

その横ではランが自分の居場所を失ったように身を細くして立っていた。ルイに会ったときにランを呼ぶように頼んでおいたのだ。


しかし何か言いたそうにしているのは分かっているのだがどうしても互いにかけていい言葉が分からない。

もっともランは侍女なのでファナが話しかけるまで話してはいけないのだが。

いつまでこの沈黙が続くのだろうかと考えていると一本の桜の木が庭先から目に入った。

本来、ボルツワークには桜の木はないのだがファナが降嫁する際に1本だけ植えてもらうことにしたものだ。

「………」

桜を見た瞬間、もう言う言葉は決まっていた。今までこんなにも沈黙が続いていたかすごく不思議なくらいにその言葉はすんなり出てきた。



「ねぇラン?…久しぶりに花見がしたいわ、それでゆっくりお茶でもしましょうか?ラン」


「―――はいっすぐ準備いたします」

一瞬呆気に取られたようにランは口をポカンと空けたがすぐにファナに背を向けお茶の準備をし始める。


「ありがとうラン」

本人に聴こえるか聴こえないかで呟いたありがとうは不思議とファナの心を癒してくれた。











「姫に変わったことはなかったか?」

さきほどファナが下がらせた侍女はその足で皇帝が使う執務室に向かった。


「はい。特にお変わりなく健やかにお過ごしでおいでです。」

「伽には応じたか?」

「はい、承知しましたとのご返答を頂きました」

伽の伝令役に行かせた侍女に姫からの返答を聞いてそれならひとまず安全だな―――とグレイスにしては珍しく安堵の息を吐いた。

なにしろ昨日の今日だ、あの姫なら伽をすっぽかすなんてことをするのではないかと少し心配していた。


「今は何をしていた?」

あの姫のことを気にする、いや人のことを気にするなんて自分の柄に合わないことは十分承知していた。今まで他人のことなどどうでもよかった。

でもなぜだかあの姫の様子が気になって仕方がない。少し躊躇したが結局聞くことにした。

「姫様は今、庭園で花見と呼ばれるものをしておいでです」

聞いたことがある。リチュワードでは春の季節に花を眺める習慣があるのだという。

この国は自然はあるがどちらかと言うと熱帯雨林が生い茂るサバンナの方に近い。だから花が咲くようなところはほとんどない。

「そうか……」

「……」

「―――下がっていいぞ、ごくろうだった」

「はい、失礼いたします」


今度は侍女が安心したように頷き執務室から足早に去って行った。

侍女という身分は決して低くはないがそれでも貴族や軍の者達との差はやはりある。

皇族、ましてや皇帝ならなおさら侍女にとって居ずらい場だったのは間違いないだろう。

もう少しはやく返してやればよかったと足早に去る侍女を見ながらそう思った。


自分ように用意されたお茶を一口啜り完璧に侍女の気配がなくなったのを確信してグレイスは執務室を出た。












花見は風情のあるものだ。

この国の侍女に聞いたらボルツワークではそんな習慣はないと驚かれたが、やはりいいものだとファナは思う。

その考えに同感してくれるのはこの城ではランしかおらず、結局二人だけのお茶会になってしまった。

二人が嫌いなわけでも大人数が好きなわけでもないが花見はいつも皇帝直々のお誘いで皇族が集まっていたので二人だけというのは

なにか変な感じがする。

前まではお花見がある度に嫌味を言ってきた第一皇女が懐かしく思えてくる。


ランとのお花見をしながらファナは久しぶりに落ち着いた休みを楽しんでいた。

「ふふふっ」

「どうしました?」

「昔のことを思い出してね」

「はぁ」

「そうそう、あまりに腹の立つことばかりあったから忘れていたわ」

「腹の立つことですか?」

ランは意味が分からないというように首を傾げる。

それはそうだ。これはランがいないときにおきたものだからランが知る由もない。


「ランを連れてきてもらうようにルイ殿に頼んだとき、あの陛下から勅使がきてね」

「勅使ですか?」

これにはランも驚いたようで、目を丸くしている。

そんなランの様子が可笑しくて自然と頬が緩んだ。

「そう、しかもその内容が私に外出を控えて欲しいとのことだったわ」

努めて明るく言ったつもりだったのだがランにはそんなに簡単に黙認できる問題ではなかったみたいで一瞬顔を強張らせる。

「そんな、」

ランの表情が曇っていくのが分かる。

こんな表情をして欲しくて言ったわけではないが結果、自分のことを心配してくれているのが分かって少し顔が綻ぶ。

「大丈夫よ、ラン。あなたが気に病むことではないわ」

「しかし、伽の次は外出禁止ですか。陛下は姫様をどうなさりたいのでしょうか」

ランの目からはあきらかに心配の目から怒りに変わっている。

会わない数日の間にランも強くなったのだなと感じ取ったが自分の知らないランがいるようで妙に落ち着かなかった。


「分からないわ、でも私もそろそろ限界だわ。あの減らず口叩いてやりたいわ」

「……」

「それに外出禁止にしておいて退屈しないように計らっても下さらないし」

「……」

「ランもそう思うでしょう?」

「あっあぁそう、ですね」

なぜか急に大人しく返事がしどろもどろで目を泳がせているランを不思議に思ったがファナは話を続ける。

このときファナは気付くべきだったのだ。なぜランが曖昧な返事をしたのか。


「気に食わないのよ、あの人みたいな利己主義は」

「そっそう…ですね」

「だいたい、自分の伴侶の様子でも見に来ようとはしないのかしら」

「お前が嫌がると思って今まで先延ばしにしていたのだが?」

「そうよ、別に来てもらっても困るけれど………」

「そうだろうな」

「―――っ!」


危うく、さきほどから手に持っていたカップを落としそうになる。

ファナが固まったまま動けないでいると今まで話題に出ていた男、グレイスがなんの遠慮もなくファナの庭に足を踏み入れた。

そして回転式の椅子をぐるりと逆に向き返す。


「―――陛下、いつからそこにおいでだったのですか?お呼びなら声をかけていただいたらよかったのに」

混乱でパニック状態になっている頭をフル回転させて、愛想笑いを浮かべ挨拶をする。

冷や汗で背中がじとっと濡れているのがわかった。


グレイスはニヤッと口角をあげファナを見る。

そこから先ファナはグレイスから視線を離すことが出来なかった。

「なに俺は減らず口らしいからな、うっかり余計なことを言ってしまわないように黙っていただけだ」

その言葉を聞いてスッと背筋が凍る。要するに聞いていたのはファナの愚痴の最初からということになる。


ようやくランが急に大人しくなった理由が分かった。

(ランもっとなんで分かりやすいように黙ってくれなかったの)

軽くランに悪態をついたがもう遅い、楽しそうに細められたグレイスの双眸は何かたくらんでいる。


「どうやら俺の后は退屈していらっしゃるようだから、相手でもしてもらおうか」

「なっなにを」

そう言ったときにはもうファナの身体は持ち上げられていた。


「降ろして、降ろしてください」

「退屈しているのだろう?」

グレイスは咽喉で笑いながらファナの身体をお姫様抱っこで軽々と持ち上げる。

ファナはランに目で助けを求めるがとうの本人は自分の目の前で起こっていることが理解できず固まってしまっている。

ランに助けを求めるのは不可能だろう。


「ちょっ降ろしてください、お願いです」

なかば誘拐ぎみなことをしているとは考えられにくい足取りで堂々とグレイスはさきほど来た道を引き返そうとする。

ファナは最後の抵抗とばかりに思いっきり爪でグレイスの腕を引っかいた。


「お前は猫か……」

グレイスは一度立ち止まって一瞬痛そうに顔を顰めたがまた歩き出す。

「主人に盾つく玩具ペットにはおしおきが必要だな」


そういってファナの首根の髪を一房掴むと首筋へ唇を寄せた。

「っあ……んやめっぁ」

首筋を吸い付く感覚にぞくりと悪寒が走った。

ファナは抵抗したが所詮は男と女、力で敵うわけもなくグレイスが止めるまでファナはなすがままになっていた。

「やっめてくだ…さぃ」

最後のほうは多分涙目だったと思う。でもそれが功を奏したのかグレイスはファナの首筋から唇を離す。

するとグレイスの手がまたファナの頭のほうにのびてきた。ファナが反射的に身体を縮めると途中までのびていた手が動きを止め

もとの位置に戻った。


「もうしないから、そんなに怯えてくれるな」

「はぃ……」


はいと返事をすることしかできなかった。

グレイスが刹那悲しそうに顔を歪めた気がしたが今のファナにはそれを気にする余裕などどこにもなかった。

ただグレイスの服にしがみついて自分の部屋を後にした。





更新が遅れてしまいました。


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