エロゲ転生、ダンジョンという名の怪物
怪物(笑)
ちなみに、チュートリアル(ダンジョン)で死んだことのあるプレイヤーっていたりしますか?
地面に着地する直前に浮力の魔法が地面全体に掛かったため、挫くことなく着地に成功した。
「よいしょとな、千花大丈夫か?」
「ぁ…はいっ♪ ありがとうお兄ちゃん! 大好きですっ♪」
短い時間の中で近く、というかずっと腕を離さなかったので思わず抱き寄せてちゃったんだけど…千花の場合これが正解みたいだな。
…というか…俺も、攻略できる対象になってない…?
「……まぁいいか」
とりあえずぎゅっとだけ抱きしめておこう。セクハラにならない範囲で。
「~♪」
「兄ちゃん、さすがに空気を読もうよ……」
「優月様…シスコンはほどほどにしてくださいね」
呆れられてるような視線を二つ向けられる。けどそんなことは知らん。
だってKAWAIIんだもの、しゃーないやん。
ほら知ってるか? お前らの言うことなんて無視して自分の頭を俺の胸にグリグリしてくるんだぜ? それに「うにゃ~」なんて甘えた声出すんだもの。こんなんたって当然でしょうに。
「「はぁ~…」」
呆れられた。ような、ではなく本気で呆れられた。
「ふふ、みなさん無事降りれましたでしょうかぁ? みなさんにはぁグループになってこの地下迷宮を攻略してもらいます~」
なでなでをしていると、天井からアナウンスが流れてきた。もちろん声の主はぱっつんぱっつん先生。さすが、声だけでもエロい。
こぶたならごはんさんばいイケちゃうね。
「どのようなグループでも構いませんがぁ~、4人以上は進めないので気を付けてくださいねぇ」
なお、なでなでは続行中。
ほかの人はこっちが気になっているようでいまいち話が入ってこない、のかもしれない。
「地下は2階までですがぁ、上階と下階では敵の強さも変わりますのでぇ、気を付けてくださいねぇ?」
「「ふぅ…」」
なでなでに満足したぜ!
「皆さんの武器はぁ目の前にあると思いますのでぇ、自身でカスタマイズしてから進んでくださいね?」
ふぅ…千花もこれで安心できるでしょう。彼女の眼は…大丈夫だな。
腕から下ろして立たせ、膝は震えてないし問題はない。
「ではぁ、検討を祈りますぅ!」
講堂地下内に響いていた先生の声が反響しなくなる。
「クソがぁ! テメェのせいでなにもわからんかっただろうがァ!」
ヤンキーが吼える。
「おう? どうしたヤンキー?」
「なにし腐ってんだボゲェ! なんもわからんかっただろうがァ!!!」
リピートユー。
壊れたうん。何もわからないということはわかった。
いや、状況整理中の探偵じゃないんだから、もっと説明くれや。
「……ハハッ、そりゃすまんかったな?」
そっと千花を瑛士のほうに押してヤンキーに対峙する。
「手前はどう落とし前つけてくれんだ!?ア゛!?」
「なら俺はどうすればいいんだ? あの人が言ったことを説明すればいいのかね?」
あまり使うことはなかった。使用率なんてアンケートを取ればぶっちぎりの最下位。
だというのに…どうしてだろうな。
「…テメェ、何ヘラヘラしてんだ? アァ”ッ”!?」
「いやぁ…悪いとは思ってるんだけどね」
悪いとは思ってんだけど…みんなに会えるのが、よほど嬉しいんだ。
仕方ねぇだろ? ようやく姫トラのスタートラインに立てたと思ったら、好きなキャラたちを目の前にしたんだからよ。
「ニヤニヤして気持ちわりぃなァ! クソが!」
「はは、悪いな。代わりと言ってはなんだけどさ、俺たちとチームを組まないか?」
「……は?」
「だから、詫びだって」
組みたいっていう気持ちは本当。
それ以上に、この突っ張っている男、男キャラ限定という括りにするならトップ3に位置する人気キャラでもあるのだ。
それに…コイツが他人を認めたときの漢気は、カッコイイの一言につきる。
能力値は女性陣に対して一歩も二歩も何歩でも劣っているけどな…。
「…ハン。断る」
「まぁ。そうだよな」
今のヤンキーにとっちゃ頭のおかしい奴ってなってるだろうしな。
「ケッ」
悪態をついてヤンキーは自分の武器を取りに行った。
武器、なんでしょう。アレは武器なんだ。うん。
「兄ちゃん…流石にアレは庇えないよ?」
「優月様、いい病院は近くにありませんよ?」
「おいコラ」
その煽り方はなんなんだよ。はじめて言われたわ。
「お兄ちゃん…ごめんね? 千花のせいで…」
「千花は悪くないよ。いきなり怖い目にあったんだから、それどころじゃないもんなー?」
「お兄ちゃん…っ♡ やっぱり優しいお兄ちゃんだいすきですっ! ぎゅーっ!」
ちょろ可愛い。お兄ちゃん100点あげちゃう!
って、それどころじゃないな。
「ほら、くっちゃべってないで俺たちも武器を取りに行こうぜ」
「わー、そうだねー」
「はぁ、明らかに無駄な時間だったと思いますよ」
呆れながら自分の武器を取りに行くかえでと瑛士。そして腰に抱き着く可愛いの塊にも自分の武器を取りに行かせてから自分の武器を手に取る。
一応なんともなってはいないようだが…流石に小技を使うほど切羽詰まってはいない。
…いや、この世界はリアルだから念には念を入れておくか。この保険がゲームの時と同じように行くかはわからないけど…。再度攻略する時にはお世話になるでしょう。
RTAの神様、どうぞよろしくお願いします。願わくば『祈り』が届きますように。
…この世界にRTAとか神とかいるんか? 魔人がいるなら魔神がいてもおかしくなさそうだけど。そうだったわ、ここいるのは魔王だったわ。
「あれ? 兄ちゃん、剣はどうしたの?」
「ん-、今回は格闘術でいいかな」
手に握っていた細身の剣を腰に下げる。…正直このダンジョンでは使いどころがない気がするけどな。
「ふーん?」
「それよりみんなは準備できたのか?」
瑛士は正統派に片手直剣を腰に下げて気合十分に頷き、千花は両手に鉤爪を装着してフンスフンスと息巻いている。
ちなみにかえでは特に武器を持たない珍しいタイプの魔法使いだから、準備は特にいらない。しいて言うなら短杖か魔攻耳輪だ。
肌に合わないって言ってかえではタリスを速攻で捨てたけど。
準備もそこそこに周りを見渡すと、金髪ドリルと上級貴族を筆頭にそれぞれがパーティを組んだりフォーメーションを確認したりでまだ出発をしてない…、いや、何人かいないな。
いないのはヤンキーと猪突猛進と…忍術使いか?
…性格的にソロで行ったんだろうな。4人以上がダメとしか言われてないからソロでもここは問題ない。
…まぁ最奥に構えているボスは、ヤンキーは別として、道中なら3人とも問題ないだろ。
「ん、そうだな…みんな問題なさそうだし、俺たちも行くか」
「あい」「うん♪」「はい」
(なんで優月さんが仕切るんですかねぇ…?)
「ん? 何か?」
「いいえ何も?」
わーお、奥歯になにか詰まったような言い方だなぁ。
こういう時のかえでは触れないほうが吉だからスルー。
「じゃ、俺たちは先行くなー」
「えぇ。どうぞ」
「フン」
やはりパーティのトップはあの二人か。
…ゲームのときとパーティも殆ど変わらんし、大丈夫だろ。
というかここ、上層は一応チュートリアルダンジョンだしな。
死ぬ方が有り得んか。自動蘇生が働くかは知らない。