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エロゲ転生、頼むから寝させてクレメンス

 白い天井とカーテンに囲まれて目を覚ました。

「そしてこうなるんだよなぁ……」

 室内、ベッドの上で横たわりながら一人でごちる俺。あの後気絶した俺は、また何日かの安静を命じられていた。

 身体は動くのにどうも左腕だけは動かせない。正確には動きはするが、そのたびに激痛が左腕に走るため、つまり実質動かせない。裕に一週間は布団の上で生活を強制されており、不自由を余儀なくされている。

 トイレ? 内緒だバーロー。恥ずかしいから言わせんなよ。

「当たり前です。動くだけで痛みが走るんですから、安静は絶対です」

 かえでが怒りながら―――といっても無表情だが…―――ベッドのそばに寄ってきた。

 寄らないでほしい。目になにか浮かんでいるけど、それを見せないでほしい。なんか万華鏡を覗いているようで見ているだけで気持ち悪い。

 その目から逃げると、その先には平和なようで平和じゃない目が向けられていた。

「ほんとですよっ! 私…死んじゃったかと思いましたよぉ……」

 くりくりとした翡翠色の目が、覗き込むようにして目線を外さない。不安を隠さないその目からは幾何かの怒りが込められている。

 そして目線を外したその先にも目はあり、逃げられない。

「そ、そうだよ! あともうちょっとで手遅れだったんだよ!」

 眼だけでなく顔でも態度からも心配を表現する男の子。あの時は倒れていたので目は開いてなかったものの、先ほど見た目と同じものの、それ以上に強い『意志』を、『生』を感じられる眼が映っていた。

 6つの目から逃れられることはできず。

「あ、あー…そんな顔しないでくれよ…」

 ホールドアップ(身体が動かないので気持ちだけ)しかなかった。

「あー…二人はあの後大丈夫だった?」

 秘儀。話題逸らし。

「ぐすっ、大丈夫ですぅ…」

「そうだよっ! 優月さんよりは大したことないから!」

 逸らしたらまた泣かれた。逸らせない。

 助けてぇ、かえでぇもん。

「……。ふぅ。お二人とも、落ち着いてくださいませ、大怪我人を前に大声は優月さんの身体に障ってしまいますよ」

 あっ、とふたりが自分の口を押さえる。

 かえでぇもん! ありがとぉ!

 あ、めっちゃ睨まれた。はい、ごめんなさい。元はと言えばわたくしめが悪かったです。はい。

「えっと…改めて…」

 空気を換えるかのように、千花が可愛らしい声をあげる。

「この前は助けていただいてありがとうございました、私間宮千花まみや ちかっていいます」

 知ってる。上も下も何度もお世話になったから。

「ぼくは間宮瑛士です! ぼくも…ありがとうございました! 優月さんが助けてくれなかったら…ぼくも千花も…ここにいなかったですから…」

 知ってる。自分の下半身…、もとい相棒ともいえる存在だし。

 穴の兄妹じゃないゾ。

 もっとも、顔は立ち絵でしかみたことないけど。

 そして二人は眼を伏せた。

「あ…あー…。お、俺は凛堂優月…だ」

 ほかに言うことはないんだ…

 まぁ無理もない。

「君たちを死なせるわけには行かないからね(世界が滅んじゃうから…)」

「優月さん……」

「凛堂さん…っ!」

「凛堂さんっっ!」

 曇りのない目で見られる。言ったのは二人になんだけどなぁ。

「優月さん、ぶん殴りになられてもよろしいでしょうか?」

「ほわい!?」

 ばれてら。かえでの前では余計なことは考えないようにしないといけないみたいだ。

「ぶん殴られるのは嫌だけどさ? でも…同い年くらいの兄妹が襲われてるって思ったら…なんか勝手に体が動いちゃったんだよ。…だから仕方なくね?」

「仕方なくね? で済む問題じゃありません。凛堂家の長子として軽率だったって言ってるんです」

「でも見逃して死んじゃったら最悪でしょうに…」

 いやほんと。この二人…特に瑛士が死んだらこの世界終わるけん。…って、言っても通じないんのとちゃいます? せやけん、守らんばいかんぜよ。

「というか、人助けに理由なんているの?」

 ってことで見逃してクレメンス。

「…はぁ…、わかりました」

 さすがかえでも~ん。

「でも今度という今度はご両親に報告させていただきますからね」

「ほげーっ!」

 あぁ…お説教ナリ…。

 無慈悲…。

 まぁ世界が終わることに比べたら全然マシだな。ありがたく怒られてくるかね。

 おずおずとふたりが大魔王に挑む姿! まるで勇者みたいだ!

 ……すごく頼りないけども…でもがんばれ!! おにいちゃん応援しとるで!!

「え、っと…その…かえで…さん?」

「あの…もともとはぼくたちが悪かったので…凛堂さんのことは…」

 お、これは庇ってくれるムーブ!

 ワイ将、後方腕組待機勢!!

「なんですか?」

「「いえ、なんでもないです…」」

 試合終了ーーーーー!!!

 うん、まぁ、ね? レベル99の大魔王にひよっこ勇者が勝てるわけあらへんのよな。せやな。よく頑張った。

 ワイ将、選手たちをねぎらわねば…。

「いいんだよ二人とも。もともとは俺も悪かったんだから」

「もともと? 全部の間違いでは?」

「シャラップかえで」

 大魔王にターンは渡さない! 続けますぞ!

「二人はな、やった生き残った! 嬉しい! って、素直に喜んでくれりゃいいんだよ」

「…凛堂さん…っ!」

「…り、凛堂さぁん…ッ!」

 びぇぇぇぇん!!!

「おぐっ! ぐぇっ…」

「はぁ…言わんこっちゃない…」

 苦しい…死ぬ…。おぉん…。ふたりとも力緩めて…。ギブ…。

「少しは反省してくださいね優月さん」

「え、ちょ!? かえで!? かえでさ、いやかえで様?!」

「静かにしてくださいここは病人が眠る場所ですよ?」

「それ俺に言うの!?」

 かえでモンは許してくれなかったようだ。

「「びぇぇぇぇぇぇぇん!! お兄ちゃぁぁぁん!!!」」

「だぁぁ! うるせぇぇぇぇ!!!」

 その後医者が来るまでの間、三途の川を渡りそうになった。

 その前に泣き止んでくれたから渡り切らずに済んだぞ…。

 合掌…。

 あと、この日を境に、兄妹は俺のことを「兄ちゃん(お兄ちゃん)」と呼ぶことになり、かえでと合わせて秘密特訓、という名の訓練を行っていくことになった。

 うん、とりあえず監視兼パワーアップすりゃ、最低でも下級魔族からなら身を守れるし破滅を迎える可能性も下がるでしょう。

 ……そう願いたい。


1章終了。

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